誠の旗の元に 壱
□第三章 京市中
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「兄様!!どこですか、兄様!!」
梢は何度も兄様、と叫ぶようにして呼ぶ。
『正禄館』に着くと、道場の門は空いているものの、そこには誰もいなかった。
「こっちです!足跡がある!」
「あ!」
桂が地面を見て声を上げた。
確かに争いが起こったであろう幾つもの足跡が道場に続いていた。
その足跡に混ざってところどころに赤黒い点々が見える。
「これは、血……?」
梢が息を呑むのがわかった。
その赤黒い点々も、足跡と共に道場へと続いている。
「道場へと誘いこんだか……」
桂がそう言い切る前に、梢の身体が動く。
「っ…梢さん!」
「兄様!」
さくらの制止も聞かずに梢は道場の中へ入って行く。
「…桂さん。俺、この後用事があるんですが…」
「駄目です、君も来なさい」
間髪与えずに一蹴した桂は肩越しにさくらに一瞥する。
長い髪の隙間から見えた桂の瞳には、確かに悔しさが見えた。
桂は先程の、と言いかけて僅かに口ごもる。
恐らく“羅刹”をどう表現していいのかわからないのだろう。
人間か、それとも----…。
「…先程の、白髪赤眼は強い。人間とは思えないほどに。あれは…何ですか」
「……。以前会ったことがあるんですよ」
「…そうですか」
桂は間があって答えたさくらに訝しげにするも、二人は梢の後を追い、道場の中へと入っていった。