蔵書
□怖い話[乱歩+中也]
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こうして、繁華街を歩きながらの、季節外れも甚だしい怖い話会が始まった。
中原の口が発する怖い話の数が5を越えてもなお、江戸川はずっと笑顔だった。否、糸目の所為なのかもしれないが、その時の中原にはそう見えていた。
「こういう話、好きなのかよ」
「まあね。乱歩名探偵、幻想怪奇は好物なのだよ!」
したり顔で声を張られても、中原としては困るだけなので、とりあえず適当に相槌を打っておく。
「そうかよ」
「興味無さげだなぁ。ま、いいけど。それより聞いてよ素敵君」
一寸待て。
帽子は何処へ行った?
別に素敵帽子と呼ばれたい訳ではないが、気になってしまう中原。しかし迷探偵はそれを無視。身振り手振り、ケラケラと笑いながら話し始めた。
「話と言っても至極短いんだけどね?この前太宰が、社に黒い靴下を持って来たんだ。それも片方だけ。気になって聞いてみたら、何て応えたと思う?」
「?さあ…」
意味もなく寒気が襲ってきたが、それに気付かぬ振りで首をかしげる。
中原のそれを見た江戸川は、口元を歪め、先を綴った。
「『気にしないで下さい。唯、元相棒の匂いが好きで堪らないだけなので』ってね、応えたんだよ。主食なんだって。まっ、頑張り給えよ♪」