蔵書
□怖い話[乱歩+中也]
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「君は?名乗らないのかい?失礼な人だなぁ」
子どもじみた挑発だ。それには乗らなかったが、素敵帽子君と呼ばれるのもどうかということで、中原も名を告げることにした。断じて、江戸川の発言に苛立ったとか、そういうのでは一切合切ない。違う。
「…中原中也だ」
「中原中也…。ははっ、面白いね♪うん、いい名前だよ。リズミカルでさ。ところで素敵帽子君」
こいつの耳は飾りなのだろうか。
「なかは
「素敵帽子君。突然ではあるけれど、怖い話をしようか」
「……」
もう嫌だこいつ。
心の内で泣き言を呟く。元相棒も中々に面倒な男だったが、狐目探偵(仮)はそれ以上らしい。
元相棒の青鯖は、それはそれは素敵な、悪意あるこの手の地味な嫌がらせを仕掛けてきたが、何せこの男には悪意たるものがない。
素で面倒くさい。
もう何というか、怖い話をするには季節外れだろうとか、そんなのどうでもよくなるくらいに、面倒くさい。
「分かったよ。話したきゃ話せ」
すると、江戸川はきょとんとして、
「え?君が話してくれるんだろう?」
当然のように云われた。我が儘にも限度というものがあると思うのだが、当の御本人は「ねーまだー?」と期待に目を輝かせ、怖い話を要求してくる。
中原は諦めた。
怖い話、やってやろうじゃないか。