蔵書

□6月19日[太宰]
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私は中原中也という男が嫌いである。
理由を挙げていてはキリが無いが、一番の理由はこれだ。
私の自殺の悉くを邪魔してくる。
麻縄で首を吊ろうとすればすぐさまそれは切られるし、睡眠薬の多量摂取しようとすればいつまで経っても死ねず、気づけばそれは全てラムネだったり。部屋で一酸化炭素中毒になろうとしても、部屋の窓という窓を破壊され尽くしたり、川に飛び込めば岸辺に引き上げられ一、ニ発殴られたり。投身を図ってもどこから現れたのか、首根っこを掴まれてそのまま地面に打ち付けられたり。これまでどれ程彼に自殺を邪魔されただろうか。数えてみようにも、両の手足じゃとてもじゃないが足りない。あの猫の様な鋭い瞳も、オレンジの光を纏ったクセ毛も、いい歳して黒コートを肩に羽織ったりして格好つけているところも、容姿に不釣り合いな声も、妙に世話焼きなところも、何もかもが鬱陶しい。気色が悪い。なのに。
それなのに、こんなにも彼のことを思い出すのは何故だろうか。
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