蔵書

□小雪降りしは性なる夜[太宰×中也]
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腹の辺りに重みを感じて目を開けた時、真っ先に入ってきたのは赤い布だった。

「どうだよ太宰。人に女装させといて、自分だけ寝入った気分はよぉ?」

…サンタだ。膝丈の裾にフリルの付いた深紅のスカートに、肩丸出しの袖なしの、露出に露出を重ねたサンタクロースを模した服を着た中也が私の上に乗っている。

「今日はそういうのがいいのかい?」

手首を掴んで引き寄せる。するとあっさり此方に倒れ込んできたが、肝心な表情というものは、そういう気があるようには思えないものだった。ほんのり、瞳に殺意をはらんでいるような気もする。

「てっめえ…。馬鹿にするのも大概にしろよ」
「そんなつもり、ないのだけれど」
「…」

素直に口を吐くと、双眼を一瞬見開き、眉間に皺を寄せながら苛つきを隠さず、

「いぅっ!?」

唇を咬まれた。
噛み付く様なキスだとか、そんな素敵な表現が合うものではなく、文字通り、下唇を咬まれたのだ。中々に痛い。

「い、いきなり何するの中也!?」
「手前で考えろクソ太宰」

一週間に三度くらいは聞いている位の悪態だが、愛嬌が全く以ての皆無。語尾に常に刺があり、本気で腹を立てているご様子だ。
とは云え、ここまで中也を怒らせる様なことをした覚えは無い。思い当たる節が無い。

「私、中也に何かしたっけ?」

尋ねてみても返答はない。代わりに、本当に覚えてないのかよ、と消え入りそうな呟きの後、私から降りて部屋の窓に近付く中也の姿があった。拗ねている時の声だ。不謹慎だが、可愛いと思ってしまう。
自身も起き上がり寝台から降りる。窓硝子が、不服そうな彼の顔を映していた。

「…あ」

外では、小雪が舞っていた。
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