―5th―

□光彩ステッカー
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 古い傷が痛む。
ブチャラティが僕に付けた脇腹の小さな切傷。
もうずっと前の話なのに、どうして今になってぶり返すのだろう。
ブチャラティへの恋情は捨てた。
絶対に叶うことはないし、不毛なだけ。
そう切り捨てたはずだった。

















「大丈夫か、血出てるぜ」

「何がです?」

 ナランチャは、僕の脇腹を指差してそう聞いてきた。
知らず知らずのうちに僕は自分の手で引っかいていたらしい。先程の痛みはこれだったのか。
冷たい風に曝されて痛みが増す。
ナランチャが応急処置に、と僕の患部に四角い絆創膏を貼ってくれた。

「その傷、ブチャラティん時のやつだろ」

「なんで知って・・・」

「お前が言ってたんだよ。寝ぼけてたときにさ」

 寝ぼけていた時と言われても全く記憶に無い。

「まだすきなのかよ」

 ナランチャは顔を俯けたまま僕へと言葉を投げかける。
何故コイツは僕がブチャラティに思いを寄せていたことを知っているのか。
多分、先程の『寝ぼけていた時』に口を滑らせたのだろう。

「俺にしろよ、フーゴ」

 泣きたいのはこっちなのに、ナランチャは泣きそうな顔で僕へと視線を向けた。

「お前の悲しむ顔なんか見たく・・・ない」

 まるでずっと前から僕のことを好きだったかのように。
大きな瞳が寂しげに揺れる。
ナランチャの温かい手が僕の頬に触れる。
彼の温度を感じる。
妙に心地よい。

「ナランチャ、僕は」

 その後の言葉を聞きたくないとでも言わんばかりに、ナランチャは僕の唇に自分の唇を重ね、舌を滑り込ませてきた。

「――――っん、ふ」

 急だったせいで息が出来ずに苦しかった。

「・・・・・・ごめんな」

 引き剥がすようにして肩を押すと、我に返ったようにナランチャは僕に謝りを入れた。
謝るべきは僕。
気持ちの整理を上手くつけることが出来ない。
何もかもがぐちゃぐちゃに交差する。
泣きそうで泣きたいのに言葉が出てこない。

「・・・僕はどうしたらいい」

 ナランチャに問いかけたって答えなんか出てくるはずも無いのに、何かに縋り付きたくて僕は言葉を続ける。

「ブチャラティに対する気持ちは捨てたし、この先もう僕はそんな感情なんか芽生えないんだろうなって思っていたのに、君が、そんなこと、言うから」

 ナランチャは静かに僕を包み込む。
彼の優しい日光の匂い。

「今すぐになんて言わない。ちょっとずつで良いからさ、俺を好きになってよフーゴ」

 僕は彼の背中に手を回し抱きしめ返した。
自分じゃない誰かの温もりを、久しぶりに感じた。
いつも僕が馬鹿にしていた彼は、僕よりずっと大人で。
子供だったのは僕のほうだった。






















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