―5th―

□延命トリアージ
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 こんなに死と向き合っている仕事をしているのに、僕は死にたくなかった。



















――――――――延命トリアージ




















 たった今大量殺戮を行った。
腐敗臭と、毒素の混じる不快な臭いが鼻につく。
自分も感染してしまう為、すぐに現場から遠ざかったが、ずっと鼻から離れない。
もう慣れてはいるが、不快感はどうしても拭えない。
人間が本能的に嫌いな臭いなのだろう。

「フーゴ」

 前方にいた黒髪の、身長の低い男。
ナランチャ・ギルガ。
彼はいつも僕の任務が終わった後迎えに来る。
何故だと聞いたことがある。そしたら彼は、暇だったから来ただけだと答えた。

「飯食いに行こうぜ。俺が奢ってやるからよォ」













 日はすっかり沈み、時計を見ると9時を回っていた。
 街角にあった近場のレストランに足を踏み入れ、僕はその後ろをついていく。
赤レンガに黒の看板。然程目立たないひっそりとした場所にあった。
自分の服が汚れていないかを確認し、テーブル席に座る。
客の数はそんなに多くなく、カウンターにチラホラいる程度だ。
渡されたメニュー表をしばらく眺める。
でも先程の光景を見たせいで食べる気も起きない。

「俺はこれにしようかな。お前は?」

 彼が指差したのは赤い汁が滴るステーキの写真。
僕はサラダとスープだけを注文した。
かしこまりました、とウエイターが席から離れていく。

「遠慮してんのか?もっと食えよな。お前細いんだから」

「それ言ったら君の方が小さいですよ」

 そう言い返すと、何ィ〜!?良いんだよ俺は。成長期なんだからよ、と馬鹿丸出しの反論をしてきたので、無視を決め込んだ。

「ほんと、お前ってカワイクねーよな〜。年下らしく素直に甘えればいいのによ」

 テーブルに頬杖をしたナランチャがオレンジジュースを飲みながら僕の表情を伺う。

「可愛さを求めてるんだったらそこらの女捕まえれば良いんじゃないか。顔は良いんですから」

 喋らなきゃかっこいいんですよ、と次の言葉を口にしようとした瞬間、視界が若干暗くなり、唇に温かいものが触れた。
ナランチャの顔が近い。

「何考えてんだ馬鹿!」

 彼なりの気遣いかどうかは知らないが、一応メニュー表の影になっていたので、僕達がキスしたことは誰にもバレていない。

「カワイクねーなんて嘘だよ」

 彼は笑った。

















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