―5th―

□飴玉ニヒニズム
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 これは当の本人、僕達しか知らない。
僕とナランチャは密かに想いを交わしていた。
 いつからだったかは明確には覚えていない。
僕が彼を好きだと告げる前に、彼は思いをシンプルにぶつけてきた。
お人よしで、馬鹿な、年上にも見えないような奴。
どこが好きだったのかと聞かれれば答えられない。
彼は僕であって、僕は彼だった。
似ていたのだと思う。






















「なァフーゴ・・・」

「なんです」

 例の行為に持ち込むのは決まってナランチャだった。
僕もその行為自体は嫌いじゃなかった為、流されるままにしがみ付いた。
彼に会うまで知らなかった感情が芽生えた。
なんでこんなにも愛おしいと感じるのだろう。
この年齢で甘えるということを知らなかった僕は、どうしたら相手に伝わるのか分からなかった。
けれどナランチャはそんな僕を受け入れてくれたのだ。
愛に飢えていた僕は、彼の愛を知って初めて自分が人間なのだということを自覚した。
自身に欠乏していた何かが埋まった。そんな気がした。
























「はー・・・」

「どうしたんだよ?」

 僕がどんなに重い悩みを抱えていようと彼は土足で踏み入る。
馬鹿だから何も考えていないと思うのだけれど、気持ちが重ければ重いほど、彼の単純な言葉が胸に刺さった。
複雑で面倒くさい言葉よりも、まっすぐに届く純粋な言葉。
何度も救われてきた。

「元気出せよ、飴あるぜ、ほらよ」

「・・・」

 苺味の飴。
昔から『苺味』というのは嘘っぽい味がして嫌いだった。
でもナランチャのくれるこの飴は不思議と嫌いじゃなかった。

「・・・甘い」

「そりゃそーだろ。殆ど砂糖で出来てるんだからよォ」

 肩を並べて、誰もいない夜中のアジトでキスを交わす。
偽物の苺味のキス。
 自分の不安を、優しく拭ってくれる。
言葉にはしないが、彼のことが大好きだった。

















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