―5th―

□ローズサーモグラフィー
1ページ/2ページ








 兄貴のことを心から慕っている。
強さ、覚悟、精神、美しさ。
数え切れないほどの尊敬に値する産物。

 兄貴は顔が綺麗だ。
比較的顔立ちが良い暗殺チームの中でもぶっちぎりで美しい。
チームの誰かが死んだ時に見せる、愁いの帯びた横顔。
俺が何か仕出かした時に出る、怒りの表情。
自信に溢れた強気な瞳。

 彫刻。高嶺の花。
なんて例えればいいか分からない。
声も顔も全て好きだ。
前に好きだと伝えたときどんな顔をされたか覚えている。
照れくさそうに「おう」と言った。
きっと兄貴は尊敬の意味の『好き』だと捕らえているだろう。
もどかしくて伝わらないけど、俺にはキスする勇気だってない。


 だから、行ったり来たりしているうちに、とられてしまった。


「プロシュート、後で話がある」
 リーダーがそう言って部屋に兄貴を呼び出した。
その夜兄貴が帰ってくることはなかった。
隣の部屋から漏れる艶のある声と、金属の軋む音。
全ての察しが付いた。









 どこまで自分は臆病なのだろう。








 翌日、兄貴の首筋に2つキスマークを見つけた。
どうやら本人は気付いていないらしい。
「兄貴、」
「どうした?」
 正直、兄貴を汚したリーダーの事は許せなかった。
だが、自分だって想像で何回も兄貴を汚していた。
後ろめたかったが、人に言える立場ではなかった。
「―――・・・」
妙な色っぽさを残した右首筋に釘付けになっている自分がいた。



 自分よりも遥かにリーダーの方が『プロシュート』を理解している。
釣り合うわけがないということも知っていたから割り切っているつもりだ。
ただ、我慢すればいいだけ。



「ペッシお前最近どうしたんだ」
長い睫毛が、黒目がちな目が自分を見ている。
なんだか自分の考えている汚い欲が見透かされそうで震えた。
「聞いてるか」
プロシュート兄貴が顔を近づけてくる。
呼吸の音が、聞こえる。
心臓も近くに感じる。
キスも出来そうな位近い距離に興奮した。
「兄貴と、セックスしたい」




やっぱり俺はいつまでたってもマンモーニのままだった。
思わず逃げ出した俺は自分に与えられた部屋へと閉じこもり、静かに鍵をかけた。
合わせる顔がない。
なんであんなことを言ってしまったんだろう。




しばらくはご飯も要らなかった。
兄貴と顔を合わせるのも辛い。
リーダーの作る、旨い飯だって今は食べたくなかった。












次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ