―5th―

□Like Perfume
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 トリッシュにワキガ臭いと言われてから、ミスタは異様に香りに敏感になっていた。
あの場では、「あまり気にならない」と言われて笑っていたりしたが、内心では彼も気にしているのだろう。
 彼は最近香水をつけるようになった。
 それもかなりの数のものである。
 昨日はシャボンの香りだなと思った翌日にはフローラル。そのまた次はベリー。
さり気なく周りの反応まで窺ったりしている。
彼なりに自分に似合う香水を探しているのである。
その姿は可愛いのだけれど。
彼本来の香りも僕は好きだった。
微かな汗と、柔軟剤のシトラスの香り。

 仕事の手を一旦止めて、愛しい恋人にそれを伝えに行こうと思った。
ミスタは今日非番で、何も無いから自分の部屋にいるはずだ。
ミスタの部屋に入ると、さっそく用件を伝える。


「ミスタ」

「んあ?なんか用か?」


 今日はローズ。甘ったるい、女性のような香りに思わず眉間にシワが寄ってしまう。
僕の態度が顔に出ていたのか、ミスタは少し傷ついたような顔をした。
そんなつもりはなかったのだけれど。


「何故急に香水を大量に購入したんです?」

「え、何故ってそりゃ、臭いって言われたら誰だって傷つくだろうよ」


 それに、と彼は続けた。
 今まで自分がモテなかった理由はにおいに関係するということがショックだったのだ。
それにしても今更モテるというのは不必要な事だと思う。


「何言ってるんですか。モテるもなにも貴方は今僕のものでしょう?それだけじゃ足りませんか?」

「・・・・・・そういうわけじゃ、ねーけどよ」


 ミスタは頬をかいて視線を逸らした。
 彼の言うモテたいというのは本心だと思うけれど、一番の理由はそれではないと思う。


「じゃあ香水止めてくださいね」

「それは無理だ」


 きっぱりと断られる。
 やはりきっとやめられない理由が他に何かある。


「何かあるんですか?やましいことが」


 ジリジリと壁際に追い込んでゆく。
 彼の口から言わせるのだ。


「あのなジョルノ。お前だって思ってんだろ?俺の臭いが気になるって」


 彼の口から告げられたのは意外な言葉だった。
一言もそんな事は言ったことはない。
彼の早とちりだ。


「僕が?そんなわけないでしょう。何回貴方を抱いたと思ってるんですか」


「・・・そりゃ分かってるけど、お前に、嫌われたくねえし・・・」


 予想はしていたけど、いざこの状況になると響くものがある。
彼なりに僕のことを考えてくれていたのか。


「――っ、貴方って人は・・・。僕はありのままの君が好きなんです」


 彼の手を両手で包み込み、安心させるように撫でた。
ミスタはその光景を黙ってみていたが、僕が彼に視線をやると、気付いたように赤くなった。


「だから、ね?貴方に香水なんで無駄なんです、無駄。良い意味でね」


 壁に手をつき逃げ場をなくしてやると、観念したようにミスタは僕にしがみついた。









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