―2nd―

□星空の向日葵
1ページ/3ページ





意識に任せて重い瞼を閉じればいつもアイツがいた。
七色のグラデーションの掛かった星空に映えるブロンドの髪。
顔はよく見えないけれど、何故かシーザーだという確信はあった。
此方が何か話しかければ何か伝えたそうに微笑む。
その意味ありげな微笑に俺はどんな表情をしていいか分からなかった。



シーザーが亡くなって5年経つ。
俺はとっくにシーザーの年を越し、一人前の成人になっていた。
一番辛かった時期に寄り添ってくれた可愛い女を嫁に貰った。
満足していた生活の中に突然出てきたアイツ。
勿論この5年間、一度だって忘れたことはなかった。



この行き場のない靄のかかった気持ちは一体どうしたというのだろう。
この感情はシーザーに会ったときにだけ現れる。
不思議な感覚だ。
死んだ後もまたこうやって会えているのだから。
でも何故だか嬉しいという感情に勝っている何かがつっかえている。
息が詰まるような圧迫感。
苦しい。
これが5年間俺を苦しめてきている原因だということは分かっている。



「顔色が悪い」
スージーQに言われた時にはっとした。
鏡の前に立って見るといつもと変わらない自分の顔。
自分でも分からない些細な色をスージーQは見つけたのか。
それとも自分と向き合うことすら自分は粗末にしているのか。
シーザーから離れなければいけない。



スージーQが俺の部屋の窓際に季節はずれの向日葵を持ってきた。
赤い装飾のついた真っ白い花瓶の中で凛と咲く一輪。
ドライフラワーだってので枯れることはないが、何故かスージーはいつも水をあげていた。




どうして今になって俺の前に現れたのか。
どうして何も答えてくれないのか。
それを聞くと、シーザーはまた悲しげな表情で笑みを作った。
それにまたイラついてしまった俺はつい口走ってしまった。


「もう俺の前に現れないでくれ」


言った後はすぐに後悔した。
なんとか弁解の言葉を紡ごうと唇を動かしたが、出てくるのは傷つける言葉ばかり。
シーザーの綺麗な顔が苦痛に歪む。
星に反射してちらりと見えた右頬に涙が伝っているのが分かった。



その日以来、シーザーは夢に現れない。
俺自身の睡眠不足も日に日に酷くなっている。
何も言わずに去っていったシーザーと、自分を取り繕おうとする弱さにまた俺は悩む。



心の中にあるドミノがシーザーのせいで倒れていくのが分かる。
ひとつ、またひとつ。
表情ひとつ変えずに佇む向日葵が憎らしくて、俺は思わず向日葵を手にとってスージーQへと返した。



向日葵のなくなった俺の部屋は、いつもと元通りに戻ったはずだったのに心は晴れない。
シーザーも相変わらず現れない。
こんなに台無しにしておいてそのまま放置だなんて酷すぎる話だと思ったが、今まで数多の女を泣かせてきたシーザーだから仕方ない、と小さく笑った。






次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ