―4th―

□恋情サイレント
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 いつも下校するときは、億泰とイヤホンを片方ずつにして音楽を聴く。
流行りの曲や、少し前のロック。
俺と億泰の好みはなんとなく似ていたので、互いがどんな曲調が好きなのか大体分かる。


「億泰〜、あのアーティストの新曲聴いたか?」


 俺達二人が好きなバンド。
この前音楽番組で特集を組まれていた新曲。
今までよりも激しく、棘の有る歌詞に一目惚れした。
きっと億泰も好きなメロディーのはずだ。
いち早く共有したくて音楽プレイヤーにすぐさま取り込んだ。


「聴いてねえや!なになにどんなのだよ?」


 はい、と億泰に片方を渡すと、左耳に装着し、黙って曲を聴いた。
転調部分。
曲が一転し、鳥肌がたつほどかっこいい。


 曲が終わり、俺が異変に気付いたのはその時だった。
曲が終わっても億泰は俺のイヤホンを外さなかった。
それどころかサビが始まったかのようにリズムをとった。


 余韻を楽しんでるのかと思いきやそれも違うらしい。


「なあ億泰・・・もう曲終わってんぞ」


「あ、ああ!そうだな」


 動揺が見て取れる。
もしかして左耳が聞こえていないのか?


「・・・俺に隠し事してるか」


「そんなわけないだろ!」


 笑って誤魔化す億泰からは、嘘をつく時の癖がはっきり出ていた。
目が泳いでいる。


「お前もしかしてさ、」


「いやーいい曲だったな、今の!なんかハマっちった!
CD買うかな〜」


 音程の外れた鼻歌を歌いながら歩く。
はぐらかされた。
でもこの話はいつかはっきりさせておかないと後悔する。


「億泰!!!!」


 これでもかという位声を張り上げ呼ぶと、
億泰は驚愕していた。


「左耳、聞こえてないんだろ」


 みるみる顔が暗くなる。


「なん、で、だよ」


「聞きたいのはこっちだぜ。なんで隠すんだよ。信用してないのか?」


 暫くの沈黙が流れる。
シン、と静まり返る空気が冷たい。



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