―1st―

□驟雨と予感
3ページ/3ページ





 沈黙が流れる。
手紙を読み終えたディオは静かに口を開いた。
久しぶりに僕に向けられた言葉は僕を追い詰めるには充分なものだった。

「俺に近づいたな、ジョジョ」

 何ともいえぬ空気に圧倒され、後ずさる。

「・・・君に聞きたいことがある」

 一番の謎だった。

「僕がキスしたときのあの表情は一体なんだったんだ・・・?」

 突如、余裕を持ったディオの表情が一変する。
眼を見開き、思い出したくないとでもいうように口を押さえた。

「思い出したくないかもしれないが、僕は聞きたい。
聞かせてくれないか」

 ディオは小さな声でぶつぶつと語った。

貧民街に居た時、父親の酒代を稼ぐためにどんな汚い仕事でもしていた。
犯罪になるような事だってしてきた。
無理矢理接吻を求められ、薄汚い貴族に抱かれたこともあった。
その吐きそうな思い出がフラッシュバックした。

 言った後のディオの顔は後悔に塗れていた。
僕に聞かれたくない内容だったのかもしれない。

「辛かったんだね・・・ディオ・・・」

「貴様に俺の気持ちが分かってたまるか・・・
お前はこんな汚い俺に同情しているんだろう」

 抱きしめると強張った体が少しだけ和らいだ気がした。

「汚くなんてない」

「嘘を付くな!俺は同情されるのが大嫌いだ」

 僕は信用を取り戻すために二度目のキスをした。
今度はディオの眼から恐怖は消えていた。

「何度でも言うよ。僕は君の事が好きだ。愛してる」

 勿論、これだけで信じてくれるとは思わない。

 ディオからの返事を聞くより先に彼の首筋を甘噛みし、ほんのりと赤い痕をつける。

「・・・なんだ、これ・・・」

「君の答えを聞かせておくれよ」

 返事を催促すると、何も言わずにディオは僕の肩に手を回しキスをねだった。
何度も深く口付けした。
どちらのものか分からない唾液が、つうと糸をひく。

「なあジョジョ・・・」

 潤んだ眼が僕を官能的に見つめる。

「これからも、俺の事を好きでいてくれるか?」

 酷く寂しそうな声色でディオは僕に問いを投げかけた。
眩暈がしそうな位幸せに浸っていた僕は即座に頷いた。

「ほんとうか・・・?」

「本当だよ・・・」







 その時ディオの口角が少し上がった気がした。









前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ