―1st―

□驟雨と予感
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 やってしまったと気付いたときにはもう遅かった。
一時の感情に身を任せた自分に苛立ち、後悔した。
彼は男で、それに仮にも弟じゃないか。
一体何をしてしまったんだろう。

「・・・・・・・・・」

 ディオの表情を伺うと、怒ってはいない様子だった。
だが、その眼に映るのは恐怖だった。
泣いていた、と気付くのに時間は必要なかった。

「ごめ、」

「もう今後一切近づかないでくれ・・・」

 ディオは両手で顔を覆うと涙を隠した。
僕は彼を傷つけた。
彼の拒絶が僕に突き刺さる。

「分かった」

 潔くディオの部屋から退出し、自分の部屋に閉じ篭もる。
そして深い後悔に襲われた。
夜は寝付けず、天井を見ながら様々な事を考えた。
でもどうしてもディオの事を考えてしまう自分が居た。
頭の中が君でいっぱいなんだ。
その時確信した。

僕はディオのことが好きだ。

 一つ気になったのは、何故あんなにも怯えていたのかということ。
僕はその時どんな顔をしていたのだろう。
彼は過去に何かあったのではないか。



考えずにはいられなかった。










―――――――――・・・










 僕がディオにキスしたということは広まってはいなかった。
誰にも知られたくないに決まっている。
何も変わらない日常がどんどん過ぎていく。

「これ、ディオ君に届けてくれないかしら・・・?」

 クラスメイトの女子から、手紙と共に伝達を任された。
女の子らしい封筒と、差出人の名前。

 ディオは女性から人気があったし、こういうことも前には何度かあった。
今だったら何と言って渡せばいいものか。

 近づくなと言われてからは、距離を意識している。
家にいる時も、学校にいる時も、だ。
だが、それを超えなくては手紙を渡すことが出来ない。

「ディオ、ちょっと話があるんだ」

 父さんの前だったからか、ディオは嫌な顔せず僕の部屋へとついてきた。

「これ、クラスメイトの女子から」

 綺麗な封筒をディオに手渡す。するとディオは何も言わず手紙を受け取った。
当然の反応だった。
冷たい表情で手紙を見下ろす。

 今、君は僕の事をどう思っている?
僕がキスしたときの尋常じゃない怯え方は一体?
問いたい。
聞きたいことがたくさんあるんだ。

それでも勇気の出ない僕は時間の経過により一つ、また一つとディオとの信頼を潰していった。





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