エル・フェアリア

□第36話
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 戻ってくるガイアを見上げながら、強く拳を握り締めた。
「…なんでエレッテがパージャと一緒に?」
 ウインドがその事実を知らされたのは、昨日の夕方だ。
 エレッテの姿が見えないとは思っていた。
 探して探して、空中庭園とラムタル王城を何度も行き来して。
 エレッテがパージャと共に任務の為にエル・フェアリアに戻ったと教えてくれたのは、ミュズとルクレスティードだった。
「…俺にひと言も無かったし」
 まだ未成年の子供二人が知らされていて、なぜウインドには黙っているのだ。
 どんな思いでエレッテを探したと思っているのだ。エレッテがまた酷い目に合っていたらと、どれほど焦ったか。
「エレッテの防御力は私達の中で一番よ。もしエル・フェアリアで何かあっても、あの防御力さえあれば二人は無事よ」
「…パージャの仕事ってエル・フェアリアで待機だろ?ガキにだって出来ることだろ!」
 危険だろうが、たかが待機だ。それならパージャ一人で充分ではないか。
 子供にも出来る簡単な任務になぜ今エレッテを。
「…あなたには別にやってもらわないといけない事があるから」
「大会はもうじきなんだぞ!?俺の方がエレッテは必要だろ!!」
 何もかも、取り繕う為の言い訳にしか聞こえない。
 ウインドにはもうじき大切な役目が待っているというのに。
「ミュズは悪夢でうるせぇし、お姫様は使いもんになんねぇし!!」
 苛立ちが解消されること無く溜まっていく。
 上手く行かない事柄全てがウインドの邪魔をするようで、怒りに任せて強くテーブルの足を蹴り付けた。
 ガタンと強い音が静かな室内に鳴り響いて、テーブルはエコーをかけるように揺れながら静まっていく。
「その調子でエレッテにも怒鳴ったの?」
「−−っ…」
 ガイアの冷めた言葉は、頭に血が上ったウインドをわずかに固まらせるに充分だった。
 この調子で、エレッテにも。
 違う。
 確かに怒鳴りはしたが、あれは全部周りが悪いのだ。
「冷却期間が必要なのよ。あなた達には」
「俺は…ミュズのせいでエレッテが眠れないから…」
「最初の頃だけだったでしょう?後はあなたが無理矢理エレッテを引き入れていたわ」
 わずかにウインド自身も気付いていたやましさを告げられて、言葉が揺れた。
 しかしエレッテの為であることは本当なのだ。
「…エレッテが寝れるように…手も出してねぇし…」
 我慢していたのだから。
 その体に触れたかった。だがエレッテの為に我慢し続けた。
「怒鳴って従わせていたら手を出そうが出すまいがあの子には同じよ」
 その我慢も認めてはもらえないのか。
 本気で怒鳴ってなんかいない。
 多少は声を張ったかも知れないが、元はと言えばミュズが煩いせいで、その原因はパージャで。
「あなたはあなたなりの親切心でいたんでしょうけどね、押し付けていたら意味が無いわ…もう少し、あの子の声も聴いてあげて。あの子がどんな目に合ってあんなに人の顔色を窺うようになってしまったのか…あなたが一番理解してるはずでしょう?」
「……」
 俺は悪くない。
 そう思ったから、ウインドは静かに席を立った。
 勝手な説教などまっぴらだ。
 もう18歳だ。子供ではないのだ、と。
 黙って立ち去ったから、ガイアがどんな顔をしていたのか、ウインドは見てはいなかった。
 通路を歩いて、いるはずのないエレッテの部屋に向かう。
 下劣な野郎共に酷く傷付けられた女の子なのだ。そのエレッテが、唯一安心出来るはずのウインドから離されて、パージャなどと。
 苛立ちに任せて、壁に拳を打ち付けて。
 パージャ。
 なぜいつも、あいつだけが優遇されるのだ。

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