エル・フェアリア

□第31話
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第31話

 コウェルズとニコル、どちらが王座に着くべきか。
 未だ捕らえられたままのクルーガーを抜いた三団長であるリナトとヨーシュカとの対話は平行線を辿った。
 魔術師団長であるリナトはクルーガーと同じくコウェルズを王にと口にして、魔術兵団長ヨーシュカは頑なにニコルこそがと譲らない。
 ここで決まるものでもない埒が明かない話し合いは何も解決しないまま終わりを迎え、ニコルとコウェルズは自分の凝り固まった肩を回しながら同時に溜め息をついた。
 気分転換に王城壁面の庭を歩いてはいるが、疲れきったニコルとは違い何故かコウェルズは楽しそうだ。
「いやぁ、ここまでヨーシュカと話が出来ないとは思わなかったな!」
「清々しく言うことでは無いでしょう…」
 元より面白い事が大好物な王子ではあったが、こんな大切な事柄も面白がるなど。
 現在エル・フェアリアに王は存在しない。
 真実を隠す王から真実を奪う為にコウェルズが自ら討った為だ。
 父親であろうとも。
 コウェルズはリーンの真実を知る為にエル・フェアリア王デルグを討った。
 そしてコウェルズが王位につくはずだったのに、ここに来て新たな真実が発覚した。
 ファントムという真実が。
 未だにニコルには信じられなかった。
 ファントムがニコルの父で、しかも44年前に暗殺されたはずの悲劇の王子ロスト・ロードだなどと。
 何度も否定して、だが誰もニコルの否定を受け入れてはくれなかった。
 ニコルが王族であることを当然の事実として。
 たかが真実しか語れないという結界の中でフレイムローズがニコルの出生を口にしただけではないか。
 コウェルズに連れていかれた地下の幽棲の間の“何か”に恐れを抱いただけではないか。
 だがそれだけで、コウェルズ達はニコルをエル・フェアリア王家の血を引くと決め付けた。
「口を開けば君に王位を選ぶように囁く囁く。マインドコントロールみたいだったね」
「嬉しそうにも言わないでください…」
「リナトには睨まれるし」
「貴方が王位につくとはっきり宣言していればリナト団長も睨まれませんでしたよ」
「さあ、どうしようかなぁ?」
 どこまでも楽しそうにクスクスと笑うコウェルズの考えが掴めない。
 まるで王位に興味が無いとでも言いそうな口調にはリナトも唖然と口を開いていたのだから。
「コウェルズ様…」
「ヨーシュカの言うことに一理あるからね。現在の王位継承順位は君の方が上なんだから」
「だから私は今のままがいいと何度も!」
「そういうわけにはいかないと、リナトも言っていただろう。ミモザも言うよ」
 怒りに任せるように叫んだニコルをさらりと止めて、コウェルズはニコルの現状維持を許してくれなかった。
「どうあがいても君はエル・フェアリアの王族なんだ。逃げられないんだよ」
 今のままでいいではないか。
 誰もファントムとニコルの繋がりを知らないままで。
 その方が、無駄な頭を使わずに済むのに。
「…私の家族は…アリアだけです。両親はもう亡くなった…ただの平民です…」
「でもね、無理なんだよ。そんな言い訳が通じるほど、王族の血は簡単じゃない」
 ニコルの言い分を聞いてくれないなら、最初からニコルはいらないではないか。
 どれだけ訴えかけても、誰もニコルの声を聞こうとはしない。
 コウェルズを王座に望むリナトでさえ、ニコルを王家に迎え入れることは当然であるかのように口にして、根本的に現状維持を望むニコルの声は無視だ。
 なら、最初から巻き込まないでくれよ。
 自分にとって無意味な話し合い。
 もうこれ以上はニコルにも無理だ。
 口を閉ざして、不条理な流れに身を任せてしまう。
 昔からの悪い癖だ。自分の声が届かないとわかったらすぐに諦めてしまうのは。
 それでも、今回ばかりはニコルも頑張った方だろう。結果は無意味なものだったが。
 もう好きにしてくれ。頭が自棄に変わる、その一瞬早く。

 
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