エル・フェアリア
□第27話
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クレアはコレーに近付こうとするが天空塔の蔓に体を掴まれて広間の隅に追いやられている。クレアを守るためだろう。やはり天空塔は王家に従う生命体として機能している。ならなぜパージャを拒まない。
騎士達はスカイの他にも次々にパージャの結界に斬りかかるが、スカイ同様意味がなかった。
魔術師団も連携して魔力を集めてパージャを狙うが、まったく効果はない。
「…あの結界は…」
全員、特に騎士達の頭に血が上っている。その中でコウェルズはなぜか冷静でいられた。
パージャが纏う結界。
あれは。
頭の中でゆっくりと、疑問が解決していく。
「無駄だって…」
「はなして!!いや!!はなしてー!!」
ポツリと呟いたパージャが、そっとコレーの頭を撫でる。
「−−…」
そこにニコルがようやく動こうとしたが。
「やめなさいニコル!貴方の魔力ではコレー様も傷つける恐れがある!!」
「…っく」
ニコルを止めたのは、コレーの護衛部隊長であるトリックだった。
エル・フェアリア唯一の魔術騎士である彼は、パートナーであるスカイも止める為に前に進む。
その様子を見ながら、パージャが悲しげに微笑んだ。まるで別れを受け入れるように、名残惜しむように。
「パージャさん…どうして…」
「下がってアリア!」
アリアはありえないものを見るかのようにふらりと身をゆらし、レイトルが慌ててアリアを広間の隅へと離す。
何もかもが混乱の只中にある中で、コウェルズの他にも冷静さを取り戻し始める者が現れだした。
「…あやつ、なぜ動かん…それにあの結界は」
コウェルズのわずかに前にいた魔術師団長リナトが、パージャの結界の魔力に交じるものに気付いて目を見開く。
「…リナトも感じたか」
「はい…あれは」
「何なんですか!?」
リナトは気付いた。だがアドルフは訳もわからずに困惑したままだ。
何なのだと訊ねられても、答えられるはずもない。信じられないからだ。
パージャの魔力に交じる、他者の、彼の魔力に。そしてパージャの魔力そのものが“似ている”事に。
「パージャ…お前、本当に…」
「えーなになに、こんな姿見ておいて、まだ俺を信じたいの?あんた本当にいい人だねー?誰かさんとは大違いだ」
ニコルの声は揺らぎ、同様にパージャも悲しげにおどける。
なんてシーンだ。
いっそパージャが嘲るように笑っていたなら誰もが易々と剣を向けられた。だが冷静になればなるほど、時間が経ち気持ちが落ち着けば落ち着くほど、パージャの悲しげな誠実さが胸を刺す。
敵のはずだ。全員で敵と認識したファントムの仲間のはず。だがなぜ−−
−−なぜ彼がファントムでなく、その仲間だとわかった?
…誰が?
コウェルズがその疑問を深く考えるより先に、モーティシアが思考を潰すように叫んでしまった。
「レイトル、あなたはアリアを地上に!」
アリアを。エル・フェアリア唯一の治癒魔術師を。
ああ、なんて重要なものばかりが怒号として飛び交うのだ。
「あたしここにいます!」
「駄目だ!地上に送ってくれ!」
「兄さん!!」
ここにいると頑なになるアリアの腕を掴んで、ニコルはレイトルの腕の中へアリアを突き飛ばす。
「安全な場所で待機を!」
モーティシアの命令に、レイトルはすぐにアリアの手首を掴んで広間を抜けていく。
アリアの遣るせない眼差しがニコルに、モーティシアに、そしてコウェルズに突き刺さった。
アリアは治癒魔術師としてこの場にいたいはずだ。だが治癒魔術師として、この場に留まらせる訳にはいかない。
いつ酷い戦闘になるかもしれないのに、唯一の治癒魔術師を。
「そんな顔で見るなよ…こっちが悪者みたいだろ」
「っ…ふざけるな!なんで!」
そしてパージャがまたも悲しげにおどけ、話しかけられたルードヴィッヒが泣き声のような罵声を浴びせる。
彼らは同室だった。最初はあまり上手くいかなかっただろうが、共に行動する様子は騎士達の誰もが目にしている。
誰に言わせても、友人関係だと宣言しただろう。それすらもパージャは、その正体は蔑ろにするというのか。