エル・フェアリア
□第24話
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第24話
「−−可哀想だけど、この子の魔力量じゃ到底騎士にはなれないわ」
毎日のように言われてきた言葉だった。
まず「可哀想に」と必ず頭について始まる言葉。
レイトルの未来と夢を根本からもぎ取る、優しさを全面に押し出した残酷さ。
「諦めきれないようだけど、もう現実を教えないと」
自分より長く生きているから偉いのか。何でも知っている気でいるのか。
庇護を必要としない歳になったのだ。もう放っておいてくれないか。
「こればかりはどうにもならないもの」
やる前から無駄だと言われてしまったら、何を目指して歩んでいけばいいのだ。
「可哀想だけど、仕方無いわ。あの子の為に鬼にならないと」
あなたの言葉は、いつだって自分の為だったじゃないか−−
−−−−−
窓から差し込む朝日に起こされてアリアがゆっくりと身を起こした時、すでに兄の姿は部屋にはなかった。
ここはニコルとガウェの部屋だが、昨日アリアが精神的に参ってしまった為にニコルのベッドをひと晩借りて休んだのだ。
王城に来てからいつも側にいてくれた人がいないのは、少し寂しかった。ここはニコルの部屋なのだから特に。
「お休みっていったって…何もしないのは逆に疲れるんだけどな…」
昨夜兄が一日休日宣言をしてくれたはいいが、やりたいことがあるわけでもなくて。
ニコルがそのうち戻ってきてどこかに連れていってくれるかとも思ったが、少し待ってみても帰ってくる気配はない。律儀な兄が置き手紙ひとつ置かずに部屋からいなくなっているのですぐに戻ると踏んだのだが、予想は外れてしまったらしい。
アリアが休みなので護衛部隊も一日休暇を取るのだろうか。なら誰もいなくていいのかな?
そんな風に思いながらとりあえず服を着替えに戻ろうと扉を開けたアリアは、部屋から出るときによく兄がそうしていたように扉の前に立つレイトルの姿に驚いた。
「わ…」
「やあ、お早う」
朗らかな笑顔を向けてくれるレイトルは、いつから立っていたというのか。
「今日は休みじゃ…」
思わず呟いた言葉に、レイトルは真面目な表情になる。
「君はね」
「え…」
「あははは、嘘だよ。みんな今日は自由行動」
まさか護衛部隊は平常通りなのかと思った矢先に笑い飛ばされたので、思いきり頬を膨らませる。
「…じゃあレイトルさんは?」
「私はニコルの代わりだよ」
「…代わり?」
膨らませた頬を両手で潰されながら、何の代わりだと首をかしげる。
というか兄はどこへ行ったのか。
「ニコルも全く休み無しで働き詰めだったからね。この機会に総出で無理矢理休ませたんだ。今頃セクトル達に連れられて医師団で全身マッサージコースさ」
ということは、アリアが眠る間に強制的に連れて行ってしまったと。それならニコルの姿が見えないことも頷けた。
「医師団ってそんなのもあるんですか…」
「あるよ。騎士よりも筋肉モリモリの按摩師部隊がね。そうでもしないとあいつ休まないからさ。今日もアリアの護衛に一人で立つつもりだったみたいだし」
やはり護衛はつく様子に、アリアは仕方無いのかなと頭を切り替える。
護衛だとしても、どこへ行くにも必ず行動を共にしなくてもいいのでは、と言うアリアの希望的発言はその都度論破されてきたのでもう言うまいと。
ただ、今日は護衛部隊も一日自由行動だというなら、
「…レイトルさんは?」
彼は休まないのだろうか?
いくらアリアが休みだからあまり動かないにしても、仕事という意識があると気は休まらないはずだ。
「君が五日間眠り姫になっていた時に、私も随分休ませてもらったからね」
「眠り姫…でもレイトルさんはあたしのサポートでとても疲れてたんじゃ」
「伊達に鍛えてないさ。私は一日寝たら回復したよ。さあ、今日は何をしたい?どこでもお共するよ、お姫様」
まるで護衛部隊の話は切り上げるかのように、レイトルはわざとらしく頭を垂れる。
「あたし、お姫様じゃ…」
先ほどの眠り姫発言といい、本物のお姫様がいるというのに。恥ずかしくて赤くなる顔を見られないように、アリアは少しだけ俯いた。
「私達にとってはお姫様みたいなものだよ。前まで王族付きだったからね」
「うーん…でもやっぱり恥ずかしいですよ」
「あははは」
どこまで冗談でどこから本気なのか、レイトルはいつも朗らかに笑うので読み取り辛い。
「それで、どこに行きたい?王城内ならどこでも連れていってあげる」
改めて訊ねられて、アリアは頭を捻った。