エル・フェアリア
□第23話
1ページ/14ページ
第23話
天空塔で起きた第六姫コレーの魔力の暴発により怪我をした者達を、アリアは治癒魔術で懸命に治し続けた。その後倒れるように眠りについてから、さらに半日。
目もくらむほど眩しかった朝日は夕暮れの物悲しさに変わり、騒がしかった王城は嘘のように静まり返っている。
誰もが疲れきったのか俯き加減に歩く中で、ニコルは任務を手伝ってくれたミシェルと共に王城内の通路を歩いていた。
「−−では、今回のコレー様の魔力が暴発した理由は、幽棲の間に隔離される可能性を知ったからですか?」
会話の内容は魔力暴発の件についてで、全ての治療が終わりニコル達と離れたミシェルはミモザから真相を聞かされたらしく、その件を話して聞かせてくれた。
「そうなる。リナト団長も孫のトリック殿が酷い目にあったからか考え直してくれた様子で、とりあえずは天空塔にてコレー様を御守りするようだ。他国からも助力を頂ける事になったそうだから、それもプラスに働いたんだろう」
「そうですか。教えて下さりありがとうございます」
当のコレーは未だに心を閉ざして姉姫のクレアから離れないのだが。
クレアの心身も疲れきったことだろう。魔力暴発に気付いて咄嗟に結界を張っただけでなく、その後のコレーの防御結界を破いたのだから。
守り続けてきた美しい姫の折れ曲がった腕は見るに耐えないほどだった。
アリアの治癒を受けて手の傷は治りはしたが、アリアと同じように今は深い眠りについている。心を閉ざしたコレーを抱いたまま。
「我々の仕事も助けて頂いて、感謝しています」
「私の手伝えた事など君達に比べたら。…それで、アリア嬢は?」
手伝ってくれたミシェルに改めて頭を下げれば、謙遜するように手を振られる。そして気にしている様子で、アリアの容態を訊ねてくれた。
「わずかの休みも取らずに集中していましたから、今も医務室で眠っています」
「以前の保護施設での治療後も終わってすぐに気絶するように眠ったとか。随分仕事熱心な眠り姫だな」
眠り姫という例えに、思わず笑ってしまう。
「物凄く静かに眠るので、たまに呼吸しているか確認していますよ」
ベッドに眠らせたアリアはまるで死んでしまったように静かで。何度も胸の位置に目をやって、ゆっくりと上下する様子を確認しては安堵した。
そのまま息が止まってしまうのではないかという恐怖は、治癒魔術で母を失ったニコルのトラウマの影響が高い。
「君は休まなくて大丈夫か?」
アリアの次は自分を案じられて、ニコルは苦笑する。
「疲れも睡魔も一周回って今は意識がはっきりしていますよ。他の護衛部隊の者も休みはしていますが、私と同じ様子です。…レイトル殿は別ですが」
疲れてはいる。だがまだ身体が興奮状態なのか、眠たくはなかった。
「レイトル殿は?」
「アリアのサポートを適切にこなしてくれました。彼がいなければまだ治療は終わっていなかったでしょうね」
ニコル達と違い、レイトルは唯一アリアの側で治癒魔術そのもののサポートに当たった。
散りそうになるアリアの治癒魔術を魔力でカバーして散らないようにしていたのだ。
それは繊細な技術を要する為に、魔力量が多く大雑把に魔力を操ってきたニコル達には向かない技だった。
「…魔力量だけで考えるなら騎士としても危うい立場だというのに。素晴らしい素質だ」
「訓練の賜物ですね。アリアの護衛にいてくれてよかった。今ごろアリアの隣の部屋でゆっくり眠っているはずですよ」
レイトルがいなければ治癒の時間はもっと長引き、アリアの消耗も激しかったことだろう。
治癒が終わりアリアが眠りについた後、レイトルもふらふらで一人で立つこともままならなかった。
ニコル達がまだ働くと知ってレイトルも動こうとしたが疲れには敵わなかった様子で、ベッドに寝かしつければすぐに睡魔に襲われ眠りについた。
魔力を消耗しすぎたのだ。
普段は魔力を消耗した後は酷く腹が減るものだが、それを越えたということだ。
「…ニコル殿」
「はい?」
ふと足を止めるミシェルに、ニコルもつられて歩みを止めた。
ミシェルは何かを思い詰めるように真剣な様子で、言いにくそうに何度か視線をさ迷わせる。
「アリア嬢の…治癒魔術の力を後世に残す為に夫探しが始まっている事は知っているか?」
ようやく開いた口は、ニコルを固まらせるには充分な内容を聞かせてくれた。
アリアの夫探し。以前トリッシュから聞かされた話だ。