エル・フェアリア

□第7話
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 エル・フェアリアとファントムの繋がりの片鱗を第五姫のフェントが見つけ出して数日が経った。
 事態は今のところ何も変わらず、騎士達は気を張る毎日を過ごす。
 ただ、今日はいつもと少し異なる雰囲気を一部の騎士達が発していた。
「お二人さんは今日お仕事?」
「ああ。お前はどうするんだ?今日も訓練か?」
 ニコルは朝食を取るために兵舎外周の食堂に立ち寄ったところで、先に食事を済ませたらしく立ち去ろうとしているパージャと出くわした。
 ニコルとガウェにはいつも通りの護衛任務が昼過ぎからあるが、王族付き“候補”には丸一日の休みが与えられている。
 連日の猛訓練のご褒美というわけではないが、息抜きも必要だとする騎士団長の采配だ。
 こいつに限って自主訓練など有り得ないとは思いつつ今日の予定を聞けば、一日だらけるわけではない様子だった。
「前から約束してた感動の再会が待ってるんで、王城出るっす」
「そうか。楽しんでくればいい」
 ここに来るまでは王都兵士だったのだから、城下に家族なり仲間なりいるのだろう。ニコルにとっては憎たらしいだけのパージャの妹もいるはずだ。詳しく聞かずにいれば、パージャは眉間に皺を寄せているところだった。
「…怠けるなって怒らないんだ?」
 人を鬼か何かだと勘違いしているのかこいつは。
「連日訓練だったんだ。たまの息抜きも必要だろ」
「あたま固いだけが取り柄なニコルさんが…今日は雨かな…やめてよせっかくの感動の再会の日なのに」
 呆れるように呟けば、パージャはわざとらしく窓の外から青空を眺めた。
 遊ばれている様子に、隣のガウェが遠慮もなく笑うのが腹立たしい。
「…早く行け」
「へいへーい」
 厄介払いするようにシッシと手を振れば、パージャは素直に背中を向けた。
「…お前はどうするんだ」
 パージャの去った後で食堂の席を確保するガウェが、朝食を取りに行こうとするニコルを止めて訊ねてくる。任務は昼過ぎである為にまだ時間はある。その間どうするのか。
「“いつも通り”だ」
 その返しだけで、ガウェは全て理解したかのように席に座った。
 今日がいつもと少し様子が異なるのは、王城で働く者達に給金が支払わられる日だからだろう。

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 王都は広い。
 王城真下の城下町でも、端から端まで馬の全力の足でも一時間はかかるだろう。
 パージャは城下町から少し離れた歓楽街の一角で彼女を待っていた。
 給金は既に手に入れており、その額には呆れるしかなかった。一年騎士を勤めれば、慎ましい平民なら一生働かず生きていけるだろう。貴族はどうなのかは知らないが。
 ともあれ無くさないように懐に隠しておけば、視界の隅に見知った少女を見付けて顔を向ける。
「ミュズ、こっちこっち」
「パージャ!!」
 パージャが騎士団入りした当日に王城に殴り込みに来て、パージャと間違えて呼ばれたニコルと大喧嘩した少女だ。
「久しぶりだねー。あらま、また痩せてる」
 パタパタと駆け寄ってくるミュズは普段から痩せぎすな少女だったが、以前見た時よりもさらに痩せてしまっていた。
「…パージャこそ…ひどい目にあってない?つらくない?大丈夫?」
 しかしミュズは自分の心配よりもパージャをとても心配する。
 まるで悪鬼巣窟にでも放り込まれていたかのように心配する姿に、愛しさと申し訳なさが同時に同量芽生えた。
「意外と楽しくやってるよー。前より筋肉ついたし」
 ニコル達の強烈な扱きと豊富な食事により望まずとも付いていく筋肉を見せれば、うっすらと残る傷跡の数々に眉をひそめられる。
「傷は訓練でみんな付くんだよ。気にしないで。俺だけすぐに治ってたら怪しまれるだろ?むしろこの程度で済んでて超ラクチン」
 何か言われる前に、先回りしてフォローを入れておく。そうしないと、ミュズは後から後から悲しんでいく。パージャの一番欲しいものには気付かないくせに、それ以外には嫌というほど気を揉むから。
 呼び出したのは三日ほど前だ。来られるならおいで。そう伝えれば、来るとすぐに返事をくれた。
「今日は初給金もらっちゃったから、心配かけたミュズにたくさん使っちゃおうと思って」
「…いや」
 しかしミュズは、パージャが自分を呼んだ理由を拒絶する。

 
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