エル・フェアリア

□第4話
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第4話

 鉄と虹の大国エル・フェアリア。
 つわものの国とも呼ばれる国の王城では毎年一度、騎士団を効率良く動かす為の会議が開かれている。
 参加する者は騎士団長、副団長、各部隊長と副隊長、そして十四家ある上位貴族の中でも古くから王都を囲むように存在する虹の七都の領主達。
 会議に使われる広間の近くにある応接室で、ニコルは一人二人と集まり始めた領主達を何の感情も持たずに眺めていた。
 七人中、ニコルに暖かな会釈をしてくれたのは二人だけだ。
 第二位の赤都領主アイリス氏と、第三位の紫都領主ラシェルスコット氏。
 フレイムローズの父親である赤都アイリスの領主は、フレイムローズが父親に似たことがひと目でわかるほど見た目からして温厚な人だった。
 三男のフレイムローズとの関係は良好なのだろうが、どこかお互いに気を使いあっている様子は拭えない。だが同時に、互いに歩み寄ろうとしている様子が窺えて、魔眼という特殊な力を持ったフレイムローズが家族に恵まれていることが容易に知れた。
 フレイムローズが友として良く言ってくれているのだろう、ニコルという平民騎士にも穏やかに話しかけてくれる珍しい貴族だ。
 紫都ラシェルスコットの領主はガウェが唯一心から尊敬している人物で、今もまるで本当の父子のように久し振りの再会に花を咲かせていた。
 ガウェの穏やかな笑顔は珍しく、柔らかく暖まった表情はラシェルスコット氏の言葉が紡がれる度に優しく微笑んでいる。
 いつも見せる笑顔らしき表情は口元を歪ませたようなものばかりだというのに、まるで仮面が剥がれ落ちたかのような変貌ぶりだった。
 ラシェルスコットからは三男が騎士団入りしているという話を耳にしたことがあるが、王族付きでは聞いたことのない家名なので王城騎士に在籍しているのだろう。
 フレイムローズとガウェが再会を喜んでいる姿を眺めながら、ニコルはちらりと視線を窓の外に移した。他の領主から送られる冷ややかな視線を避けたいところだが、フレイムローズに父親と話してほしいと言われていたので仕方なく時を待つ。
 フレイムローズは自分がどれだけ騎士として頑張っているのかをニコルに話してほしいのだろう。レイトルやセクトルだと多くの失態を暴露されてしまうから。
 外はちょうど騎士達の訓練場のひとつが見えるスペースだが、国の重要人物達が集まる会議の為に警備が強化されたからか訓練に励む騎士の姿は見当たらない。
「…なんだ?」
 訓練場は他にもあるのであまり気にするほどの事ではないだろうが、警備にあまり関わりのないはずの王族付き騎士達の姿も見えない事が少し不思議だった。
「おい」
 ぶっきらぼうに話しかけられて振り返れば、先程までラシェルスコット氏と楽しそうに喋っていたはずのガウェが不機嫌そうに立っていて。
「フレイムローズの所に行け」
 何だよと訊ねる前に命令される。
 だがニコルは動かなかった。
 ガウェの背後に近付く人物に気付いていればニコルはガウェに言われるよりも先に動いていただろうが、違和感のある訓練場に目を向けていたので気付かなかったのだ。
 少し目を見開いたニコルの反応に、ガウェも遅かったと気付き小さな舌打ちをした。
「−−久しぶりだな、ガウェ」
 黄都ヴェルドゥーラ領主であるガウェの父親バルナが、およそ親しいとは言い難い様子で背中越しにガウェの肩に手を置く。
 その手を不愉快そうに振り払い、ガウェは冷めきった視線だけをバルナに送った。
「…まあいい。たまには家に帰ってきなさい。あれも息子に会えなくて寂しい思いをしている」
 バルナは口を開こうとしないガウェを気にすることも無く、まるで赤の他人の会話を聞いている気分だ。
 人違いではないですか?ガウェがそう訊ね返しても何ら違和感など無いほどに。
 何とか二人を親子に見せているものは、我の強そうな黄の髪と不愉快そうな口元くらいだろうか。
 エル・フェアリア王家ですら顔色を窺う場合もあるヴェルドゥーラ家当主は、黄都の政務と一族の繁栄にしか興味が無い。そして。
「…おや、城が汚れているとは思っていたが…君だったか」
 平民騎士には最も当たりがきつい。
 貴族主義の筆頭でもあるバルナは、ニコルが何をしようが全て否定する。それをわかっているので無言で頭を下げるだけに留めれば、それすら嘲笑のネタにするのだ。
 気配を探れば、フレイムローズの父親とラシェルスコット領主以外の領主達は面白そうにニヤついてニコル達を眺めていた。
 本人達はバルナの勇姿を見守っているつもりなのだろうが、ただの野次馬にしか見えない。

 
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