エル・フェアリア2

□第88話
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「だいたいあんな弱そうな奴が騎士なわけあるかよ」

「恐らく魔術師団の者だろう。私の記憶にも存在しないということは、私のいなかった五年のうちに魔術師となったはずだ」

「マジかよ。魔術師団ならあんな弱そうな奴でもなれるなんて、エル・フェアリアも終わってんな」

鼻でせせら笑うウインドを、誰もが咎めるように見つめる。ガイアに至っては、珍しいほど強く睨みつけてきた。

「……何だよ!」

「その弱そうな存在に、ルクレスティードは怪我を負わされたのだ。短い時間とはいえ、治らん傷としてな」

弟を守るかのように、リーンの口調も険しい。

「治らねぇって…俺と同じ呪いか?」

「わからん。…父上がいない以上、またルクレスティードが攻撃されると厄介だ。下手をすれば能力が奪われる可能性がありそうだからな」

「……は?千里眼がか?」

リーンの説明に思わずルクレスティードへと目を向ければ、ルクレスティードも小さく頷いて肯定してきた。

「よくわからないんだけど…目を引っ張られるみたいな…取られそうって感覚があって……」

痛みを思い出すように白い頬がさらに青白くなり、またガイアへとすがる。

「マジかよ……」

「せめてその者の能力を掴めれば我々で対処出来ただろうが…お主にその者の記憶が無いなら仕方ない。父上が戻るまで、ルクレスティードも我が部屋の結界の中に入れよう」

バインド王がリーンを守る為に張った結界が、こんな形で役に立つとは。

そう思っていると。

「…なぁ、誰かがそいつを見た記憶を持っていたら、その千里眼って能力でどうにか出来たのか?」

いまいちルクレスティードの能力を理解していないソリッドの質問が、どこか間抜けに聞こえた。

「千里眼とは全てを見通す能力だ。千里先、万里先まで見通す他、脳に焼き付いた他者の記憶も垣間見ることが出来る。ルクレスティードがそこまで訓練を積んでいるかはわからないがな」

「できるよ!…少しくらいなら」

リーンの説明にルクレスティードは噛み付くが、後半は少し言葉がくぐもっていた。

「…なら、エル・フェアリアから大会の為に来てる奴らの記憶は見れないのか?王子サマは近付くのも危険だとしても、それ以外なら確実だろ」

「残念だが私の騎士達は私が土中に埋められていた五年間、王城を追放されていた身だ。接点が無い可能性の方が高い」

私の騎士達とリーンが口にしたのは、大会の伝説と呼ばれる二人で間違いない。そうすれば残るのは。

「…ひ弱そうなあいつを狙ってみるか。弱そう同士、知り合いかも知れねぇな」

幼い少女の方はわざと考えないようにして、残るのは女顔をした武術出場者の弱そうなチビだけだ。

「待って!もうルクレスティードを危険な目に合わせないで!!」

ガイアは我が子を強く抱きしめて否定するが、その肩にリーンが手を置いた。

「ルクレスティードは相手の能力と一度繋がってしまったのだ。次は向こうからこちらに接触を図ろうとしてくる可能性が高い状況で、父上が戻るまで守り切れるとは思えない。相手の能力が分かれば、ルクレスティードを守る手札が増えて安全性も増すだろう。ルクレスティードを守る為にも、私はこの国に訪れているエル・フェアリアの者達から記憶を探る方に賭けたい」

年齢に似合わないほどの老いを感じさせる深い声で、リーンはガイアを説得する。

「…お母様…僕もこのままなのは恐い…」

ルクレスティードもガイアを見上げながら、怯えながらも現状のままは嫌だとはっきり告げた。

「……我々がエル・フェアリアのルードヴィッヒ様を安全な場所にお一人で呼び出しましょうか?」

アダムの提案には、リーンが「いや、」と即座に否定する。

「ラムタルが関与しているとは知られたくない。…だからウインド、穏便におびき出せるか?」

エル・フェアリアからラムタルに訪れている者達には、大会以上に重要な目的がある。

それはファントムとその仲間、そしてリーンを見つけ出すことだから。

「……いいぜ。元々俺とルクレスティードは前にあいつらに顔見せてるからな。簡単に釣ってやるよ」

つい先ほどウインドを虚仮にした男を思い出して、改めて苛立ちを湧き上がらせて。

「…ソリッドよ、お前も付いて行ってくれ。我々の目的を深く知らずとも、お前の冷静さはウインドの役に立つだろう」

ルクレスティードの腕を掴んでとっとと立ち去ろうとするウインドの後ろで、リーンがソリッドにそう命じた。

「チッ…あのチビから記憶探るだけだってのに…好きにしろよ」

見張りが付くようで気に入らないが、深くは考えないようにしたのは今以上に苛立ちたくなかったからだ。

「ウインド!」

ソリッドも後に着いてきて、ようやく進もうかとした所で今度はガイアに呼び止められて。

「…ルクレスティードを守ってね」

不安でたまらない母の声で、ガイアは切実に訴えてくる。

これではまるで、正義のヒーローみたいじゃないか。

「わかってる!」

気恥ずかしくて、苛立ったような声で返事をして。

まさかこんなに早く再戦になるとは思わなかった。

ひ弱そうなチビよりも、ウインドに一発喰らわせてきた大会の伝説と言われる男を思い出しながら。

「…とりあえず、何があったのか最初から全部ちゃんと説明しろよ」

ウインドの問いかけに、ルクレスティードは後ろを歩くソリッドへと不安そうな目を向けていた。

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