エル・フェアリア2

□第86話
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「……具合はどうですか?」

アリアに訊ねられて、ベッドに座るアクセルは少しだけ情けなく眉尻を下げてはにかんだ。

「まだ変な違和感はあるけど大丈夫。さっきクルーガー団長にも言われたんだけど、目を酷使したんじゃないかと思ってる。治してくれてありがとう」

「変な感じが取れないならすぐ言ってくださいね」

場所は医師団の救護室で、アリアと護衛部隊は全員揃っており、ベッドに座るアクセルを皆で不安げに見守っていた。

アクセルの目が突然破裂したのは一時間ほど前だろうか。

何かが刺さったというアクセルの目を覗き込むセクトルの目の前で、両目が突然破裂したという。

アリア達が呼ばれるままに一階に降りれば、そこにはうずくまって痛みを激しく訴えるアクセルがいた。

あまりにも痛ましすぎる長い絶叫。パニックに陥るアクセルをミシェルとクルーガーが何とか抑え、アリアがすぐに止血を行った。

止血程度ならすぐに済む。だがアリアは親しいアクセルの眼球がぐずぐずに崩れている状況に震え、すぐに治療を行えなかった。ミシェルとニコラはクルーガーと共に血に塗れた床を清掃する為に残り、他の者達はアクセルをすぐに医師団の救護室へと連れて行った。茜と小鳥はセクトルについていき、真っ青になってしまったアリアには、ニコルとレイトルが落ち着かせる為に両側を囲い。

今までも酷い傷跡を目にしてきたアリアでも、親しい人物の凄惨な傷跡を前に冷静に戻るには時間がかかった。

それでも何とか気持ちを落ち着かせ、奮い立たせて。

少し遅れて救護室に到着したアリアは、震える手に懸命に力を込めながら、アクセルの目を何とか治してみせた。

「……ほんとにありがとう。あのまま目が見えなくなったらって、すごく怖かったんだ」

パニックに陥った自身を恥ずかしく感じているのか、アクセルは俯いたままで。

そこへ、救護室のドアが開かれ、席を外していたリナトとヨーシュカが医師団長と共に戻ってきた。

この三人はアクセルの目が治癒魔術により回復した後すぐに少し部屋を出ていたのだが。

「アクセル殿、少し確認させてもらいますよ」

医師団長が近付き、アクセルの目の前に魔力で小さな光の玉を出した。

突然の明かりにアクセルは少し眉を顰めるが、医師団長が覗き込んでくるままに目を開け続けて。

「…見た目にはもう何もおかしな点はありませんね。フレイムローズ殿も魔眼を使用しすぎて目を酷使した時は違和感を訴えていたので、アクセル殿に残る目の違和感も、突然酷使したことが原因なのでしょう。原子眼については何もわかっていない状態ですから、調べられるかぎり調べてきます。明日まではひとまず、救護室で休んでください」

アクセルの目を確認して、光の玉を消して。

原子眼という言葉に、アクセルとセクトル以外は顔を見合わせていた。

「ではリナト団長、共に調べていただきたいのですが」

「アクセルは大丈夫なんだろうな?」

「今のところは、としか言えませんよ」

狼狽えながら医師団長に訊ねるリナトの様子は、完全に孫を心配する祖父のようだ。

「クルーガー達にはこちらから報告しておこう。…小僧、お前の目が落ち着いたら、また糸について聞かせてもらうぞ」

「え、あの……でも」

ヨーシュカはとっとと部屋を出て行ってしまい、リナトと医師団長もその後に続いて。

「今のが…魔術兵団長…」

レイトルの呟きは、ニコル以外の誰もが思ったことだろう。まさかこんな所で、多くの者が存在すら疑うほど秘密の多い機関の長に会うなど、と。

「アクセル、何か地下で見たのか?糸って?」

共に地下には降りなかったセクトルがヨーシュカの残した糸という言葉に反応するが、アクセルも首を横に振って。

「ほんの一瞬、何か変な糸が見えただけなんだ。それ以外は何も…短剣と同じ呪いも見えなかったし」

アクセルが目にしたのは、地下深くから伸びる奇妙な闇色の糸だけだった。だがそれは大量にもつれ絡まり、一本はヨーシュカの心臓を貫いていて。

「その糸がアクセルさんの目を…あんな風にしたんでしょうか?」

治癒の為とはいえ、アリアには酷すぎたアクセルの怪我。少し思い出したのかアリアの顔色がまた少し白くなるから、レイトルが温めるようにその肩に触れてやっていた。

「どうだろ…それはわからないけど…目が見えなくなる前に、男の子を見たんだ」

「…男の子?」

「……闇色の髪の子だった」

闇色の髪。それが表すものに、救護室内がシンと静まり返る。今のエル・フェアリア城内で、闇色の髪が示すのは。

「闇色って…まさかファントムの?」

死んだとされていたリーン姫を救い攫ったファントムと、その仲間達。

だがアクセルは、また首を横に振った。

 
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