エル・フェアリア2
□第60話
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一連の様子を静かに見守っていたのは夕食の席で唯一の男となったヴァルツで。
「うむぅ…私の立場がないではないか」
拗ねる口調に一同は最初ヴァルツの言った意味がわからずに首をかしげたが、やがてクレアがヴァルツの拗ねた理由に気付いていたずらな笑みを先程よりも強めた。
「ヴァルツ様は姉様との結婚まで一緒は無理なんじゃない?」
ヴァルツは婚約者であるミモザを夜も守るつもりでいたはずだ。それが、自分より幼い少女達に横取りされてしまったのだ。
まだ大人になりきれていないヴァルツなら拗ねる姿を隠せないことは当然で。
「…しかしサリアはコウェルズと共に寝ていたではないか!なぜ私は駄目なのだ!!」
ヴァルツの大声にサリアが噎せた。
静観の姿勢を崩すつもりはなかっただろうサリアにとって、今のヴァルツの発言は顔から火が出るほど恥ずかしい代物だ。
エルザは隣で噎せ続けるサリアの背中を擦ってやりながら、耳まで真っ赤になっている様子に軽い嫉妬心にも似た羨望を覚えた。
サリアはコウェルズと毎晩共にいたのだから。
ヴァルツはヴァルツでサリアを噎せ続けさせている発言など最初からなかったかのように腕を組んでふんぞり返り。
「ミモザを守るのは私の役目なのだ!」
「それ妹達に言ってみたら?」
「…むぅ」
開き直りとも取れる発言だが、年下の姫達に強く出るつもりはない程度には大人らしい。
不満は顔にありありと現れているが。
ヴァルツのむくれた表情に皆がひとしきりクスクスと笑った後で、ようやくミモザがヴァルツの組まれた腕にそっと触れた。
「ありがとうございます、ヴァルツ様」
ヴァルツの優しさは充分すぎるほど理解していると、ミモザは慈愛と恋愛を織り交ぜた眼差しを向ける。
ミモザはいつもヴァルツを年下の婚約者として扱ってきたが、今のミモザの目にヴァルツは一人の立派な男として映っているのだろう。
ヴァルツも無意識にそれを理解したのか、すぐに不貞腐れる表情を改めて嬉しそうな顔になった。
「いつでも私を頼るのだぞ!!」
「勿論ですわ」
愛しい者に頼られることが嫌な者などいないはずで、ヴァルツはまさにそれを体現するかのように嬉しそうな表情の中に頼もしさを含ませた。
なんて羨ましい間柄なのだろうか。
エルザはようやく呼吸を整え直したサリアの背中から手を離すと、先ほどサリアに感じてしまった嫉妬心をミモザとヴァルツにも感じてしまった。
羨ましくて、憧れる。
エルザはまだ、ニコルとの仲を公言出来ていないのだから。
エルザを守る騎士達はすでに二人の仲を理解してくれてはいるが、誰にも隠さずいられる関係は今のエルザにとって何よりも羨ましいものだった。
最初はニコルの傍にさえいられたらそれで充分だと思っていたのに、日を追うごとに欲が増していくのがわかる。
身近な人達の恋愛模様がこんなにも羨ましいなど、ニコルと恋仲になるまでは思いもしなかった。
元より少しは羨ましいとは感じてはいたが、これほどまでに嫉妬を織り交ぜた憧れを感じるなど。
いつかエルザも、堂々とニコルの隣に立ちたい。
その為には障害が多いのだろうが、ニコルと一緒ならば乗り越えられる自信があった。
「どうしたの?エルザ姉様。嬉しそうな顔してるけど」
またふと話しかけられて、しかし今度はエルザも慌てはしなかった。
「なんでもありませんわ」
そうだ。ニコルと共になら、どんな障害だって乗り越えられる。
エルザはニコルからの愛の告白を聞いたのだから。
愛していると言ってくれた。
他ならぬニコルの口から直接だ。
愛を語ってくれて、エルザに心と身体の繋がりを教えてくれた。
だから、エルザとニコルの愛は永遠なのだ。
エルザは今夜の約束を思い出して、きょとんとするクレアにもう一度優しく笑いかけた。
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