エル・フェアリア2
□第53話
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第53話
−−ガキならガキらしく寝てろ
男くさい毛布を身体にかけられて、大きな手のひらが頭にそっと乗る。
そして優しい男の声は頭上から響き渡った。
ガヤガヤと煩い中で、幼いエレッテは誰かの隣に寝転んでいた。
こんなことは初めてだった。
いつもなら勝手気ままに犯しつくされるだけの時間のはずなのに。
エレッテの悲鳴を肴に、浴びるように安酒を飲みながら欲望をぶちまける。
一人だけではない。何人もの男達が。
だというのに、何故かその日だけはいつもと様子が違った。
エレッテを飼う傭兵部隊の隊長がエレッテの腕を掴んで連れて歩き、別の傭兵部隊にエレッテを貸す。
見返りは金か酒か別の奴隷か。
エレッテはまだ幼かったが、嗜虐心をくすぐる怯えた表情と不気味な体質が受けて人気があった。
今日はどこの部隊に貸し出されたのか。
自分を切り離すように遠くの意識でそんなことを考えて、気付けば知らない傭兵達の集まる陣の中にいた。
既に酒にやられて出来上がっている者、興味も無さそうに寝ている者、焼いただけの肉にかぶりついている者。
騒がしかったはずの場所は、エレッテの登場に一瞬だが静まり返った。
「−−それが噂の女の子かよ」
誰かがエレッテを指差して興味を示す。その視線から逃れるように、エレッテはただ俯いて今を耐えた。
「おう。ガキだろ」
エレッテの腕を引く男は、見てわかるだろとでも言いそうなほどの無愛想な声でそう返し、エレッテを陣の最奥に連れていく。
今から群がられるのか。
いつものように始まるのだろう凌辱の開始を、肩を震わせて待つ。
男が奥の一角に座り、エレッテもその隣に強引に座らされて。
一人の別の男が近付いてきて、日常が始まるのだと思った。
「−−ほら、言われた通りに作っといたぜ」
だが、近付いてきた男は何かをエレッテの隣の男に差し出して去っていく。
それが何なのか、俯いていたエレッテには見えなかった。
香ばしい匂いがしたから、男の食事だろうか。そう思った矢先に、エレッテの前に深皿は置かれた。
「……」
暖かそうに湯気の立つ、ゴロゴロと具材の沢山入ったスープが。
何だろう。
訳もわからず隣の男を見上げると、食え、と無愛想な声が落ちてくる。
「…ぇ」
「ろくなもん食ってないんだろ。それ食って寝てろ」
それは、傭兵部隊に飼われて初めて訪れた非日常だった。
エレッテは何度もスープと男を交互に見て、ちらりと周りの様子も窺う。
騒いでいる男達は大してエレッテに興味を示さずにそれぞれで騒いでおり、所々に女の姿もあったが、皆楽しそうに笑っているのが印象的だった。
あの女の人たちは奴隷じゃないんだ。
一目見ただけでわかるほどの、明るい女達。
エレッテは再び視線を隣の男に戻して、困惑したまま固まった。
「…冷めるぞ」
呟いた男は自分の武器の手入れを始めて、エレッテを見ようとはしない。
温かそうなスープ。
誰かがエレッテの為に用意してくれた。
深皿にスープと一緒に放り込まれていた木のスプーンを恐る恐る手に持ち、もう一度男を見てみる。
怒鳴られるだろうか。そう心配したが、男は苦笑いを浮かべていた。
「誰も取りゃしねえよ」
男の様子を窺うエレッテを、どうやら食事を奪われないか心配していると思ったらしい。