エル・フェアリア2

□第51話
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第51話


その日は朝から、アリアはフェントの負傷した腕の確認をしていた。

フェントが腕を打ち付け負傷したと聞かされたのは昨日で、腫れ始めていた腕は昨日のうちに治癒魔術で治したのだが、大切な姫が負傷したのだ。腕の再確認は今朝おこない、完治していたことに皆が安堵した。

治癒をミモザに感謝され、忙しいコウェルズも今朝の触診にはフェントの側にいて。

「視力は治せるかい?」

コウェルズからそう切実に訊ねられて、アリアは申し訳なさから俯いた。

眼球周りの筋肉疲労は癒せても、失った視力までは戻せない。他の治癒魔術師ならわからないが、アリアの力では不可能なのだ。

そう口にしたが“気休めでも構わないから”と毎日の眼球周りのケアを命じられた。

コウェルズがどれほど妹のフェントを思っているか。

その姿は、ニコルと喧嘩をしてしまったアリアには胸に刺さるものがあった。喧嘩とは言ってもアリアが一方的に責めたのだが。

しかも兄は、その後に王城地下に降りて負傷したと聞いている。

聞かされた時はすぐに駆けつけたかったのに、その足音に気付いたようにニコルはアリアから逃げ続けた。

顔を見れない。見たくない。

そうぶつけてしまったから。

大切な礼装を盗まれたかもしれないのに。

何にも代えられない大切な贈り物なのに冷たかった兄。

でも。

だったとしても。

兄の身体に勝るものではない。

何より大切なのは。

ニコルが無事でいてくれることなのだ。

その思いは口にできないまま、ニコルに避けられたまま。



「−−レイトル…コウェルズ様命令の大切な話がある」

フェントを癒し、他国語の勉強の為に書物庫に向かおうとしていたアリア達の前に、ニコルは静かに立ち塞がった。

だがアリアを見はしない。

「…私に?」

「ああ」

指名されたレイトルも困惑の表情を浮かべて、ちらりとアリアに視線を向けて。

「今は私とアクセルしか護衛がいないから、少し待ってくれる?セクトルかミシェル殿を呼ぶから」

「いや、急ぎだが聞かれて困る話でもない。少し離れた場所でいいんだ」

「そう…なら今から書物庫に向かうところだったから、そこで構わない?」

「ああ」

話は淡々と進み、アリアはアクセルと並び、その後ろにレイトルとニコルがついて共に書物庫へと向かう。

以前の喧嘩からの今なので会話が弾むこともなく、書物庫までの道程はただ気まずいだけのものだった。

ようやく辿り着いた書物庫を開けるのはアクセルで、四人で中に入っていつもの机に向かい。

「−−じゃあアクセル、私とニコルは露台に出るから、何かあったらすぐに呼んで」

「わかった」

アリアは机に紙やペンを広げて、異国の文字が綴られた書物を棚から抜いて。

とっとと書物庫から中庭に繋がる露台に出てしまったレイトルとニコルを眺めながら、アリアはどうしようもない苦しみを胸に感じていた。

ニコルはやはりアリアを見ない。

わざと見ないようにしている姿が悲しくて、それでも無事な姿に安堵している自分もいる。

「ニコル、地下で負傷したって聞いたけど大丈夫みたいだな」

「…そうですね」

アリアの隣に来てくれたアクセルが、慰めるように背中をポンと軽く叩いてくれて。

励ましを受けてアリアは少しだけ笑い、気を取り直すように勉強に集中することにした。


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