エル・フェアリア2
□第50話
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自分自身に固く誓った強くなることへの渇望が萎縮したような感覚。
ルードヴィッヒのしょぼくれた返事に、アドルフの溜め息が漏れた。
「周りの奴らの声は今は忘れろ。お前が代表に選ばれた理由はちゃんとあるが、それを公に出来ないのも事実だ。間引きの件で騎士団内もぴりついてるからな」
理由はあるが、ファントム捜索にも絡んでいるからと。
「…わかってます」
言いたい奴には言わせておけばいい。そんなことくらいわかっているからいちいち言わないでほしい。
ルードヴィッヒはまだ、あらゆる面で大人にはなりきれていないのだから。
俯いていれば、アドルフが指示を出したのかジュエルがパタパタと軽い足音を響かせて去っていくことに気付いた。
側に女の子がいないというだけで、なぜか気分はいくらか軽くなって。
「…まぁ、深く考えないようにするなんて無理だろうがな…とりあえずお前に対するやっかみの噂は明日には半減してるさ」
顔をようやく上げたルードヴィッヒに、予想というよりは確信じみた声色でアドルフが苦笑いを浮かべた。
この数日、騎士達の間引きからリーン姫の件からルードヴィッヒの大会出場から、立て続けに噂に尽きない出来事が発表されてきた。
まだ何かあるのだろうかと首をかしげたルードヴィッヒに、アドルフは周りを気にするように見回してから、わずかに身を屈めて。
「お前には教えといてやるよ」
耳を貸せと笑うアドルフにルードヴィッヒも近寄れば。
「今な、城に双子騎士が戻ってきてるんだ。城内に発表されるのは昼過ぎだがな」
双子騎士という言葉に、その意味を理解するより先に身体が震えた。
その噂も最近の騎士団内で噂されていたのだ。
双子騎士を知らない者など騎士団内にはいない。
たとえ彼らと面識がない若騎士であろうとも。
サンシャイン家のジャックとダニエル。
かつてリーン姫の護衛だった、伝説じみた騎士。
彼らが。
「−−う」
「嘘なんか言うわけないから大声出すな」
思わず叫びそうになるルードヴィッヒを寸前で止めて、アドルフは嬉しそうに笑う。
アドルフは双子騎士と面識があるのだ。仲間が戻ることが嬉しいのだろう。
リーン姫が死んだとされて、その責任を負う形で騎士団を、王城を追放された実力者が戻る。
ルードヴィッヒも何度も耳にした、彼らの活躍を。
なにより、彼らとの思い出を楽しそうに話すガウェを覚えている。
もし会えるなら、もし会えたなら。
「あ、ぁあの、今…いま!?」
「は?落ち着け」
伝説の双子騎士がいるなら、ガウェとニコルですから一目置く人達がいるなら、稽古をつけてもらえるのだろうか。
そう興奮したルードヴィッヒだが、頭が混乱して言葉は上手く出てくれなかった。
アドルフに呆れられてしまうが興奮し始めた身体はさらに熱くなるようで自分自身が止められなくなりそうだ。
まだ指先には緊張が残るのに、それを遥かに凌駕する興奮が。
「い、いつ会えるんですか!?」
「いつって…あぁ、そういうことか…残念だがお前があいつらに訓練の相手してもらえるのは先だぞ」
「どうして!?」
ルードヴィッヒの言いたい所を理解してアドルフは先に残念な答えをくれる。
いったいどうして。
ルードヴィッヒが大会に出るなら、出場経験のある双子騎士が少しくらい訓練に付き合ってくれてもよさそうなものだが。
不満を隠さないルードヴィッヒに、アドルフはただ苦笑いを浮かべて。
「当分は王族付き共が占領しちまうさ。大会出場の決まった若手に譲ってやろうなんて寛大な心の持ち主なんざ、王族付きの中にはいないからな」
「そんな…」
双子騎士がルードヴィッヒの相手をしてくれない理由。
それは単純に、若騎士には入り込む隙もないほどに王族付き騎士達が双子騎士に突撃をかますからだと。
「血の気の多い馬鹿だらけだからな。ってかお前、天下の王族付き総隊長様であるこの俺の付きっきりの訓練じゃ不満なのか?」
「…そういうわけでは…ですが少しくらい…」
相手に遠慮なんかしてたら自分の番は訪れないとレイトルは言った。
その言葉を胸に秘めながら本音を漏らせば、アドルフは愉快そうにゲラゲラと大笑いを響かせてルードヴィッヒの装飾魔具まみれの頭を無遠慮に撫でてきた。