エル・フェアリア2
□第47話
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王族の若者達が集まる夕食の席では、普段なら穏やかな空気が流れているだろうに、今日に限っては少しぴりついた雰囲気が漂っていた。
理由は誰かが苛ついているからというわけではなく、コウェルズとミモザが夕食の席ではあるが明日の政務の流れについて深く話し合っていたからだ。
滅多にないことだが、政務を早く済ませる為の話し合いを二人が夕食の席でも行うということは、それだけ何か急ぎの件があるのだろう。
真面目な会話が繰り広げられれば、それだけ子供達の口数も減る。
まだ未成年のフェント、特にコレーとオデットは、自分達には難しすぎる話に困惑しながらも食事を進めており、エルザとクレアは妹達を気にしながらもあえて話しかけることはしなかった。
ヴァルツは自分の方に目を向けてくれないミモザに不貞腐れながら、
「なんだ、サリア。随分とつまらなさそうな顔ではないか」
コウェルズの隣で表情に乏しい様子を見せるサリアに、ミモザを独占するコウェルズへの当て付けのようにわざとらしく強調して話しかけた。
静かだった食事の席に響き渡る声の後の更なる静けさは、コウェルズとミモザも口を閉じてサリアに目を向けた為だ。
「え…いえ、そんな…」
突然話しかけられたサリア自身は単に静かにしていただけなのだろうが、皆の視線を一身に受けて困惑の表情を浮かべた。
ヴァルツも無理矢理話題をふった手前そのまま終わらせることも出来ずに、せっかくミモザとコウェルズの会話が終わったがサリアに目を向け続けて。
「コウェルズと話したいならば遠慮などせずにバンバン行けばいいだろう」
本当はヴァルツがミモザに話しかけたいのだが、そんな本音に誰も気付くこともなく。サリアはコウェルズに目を向けたりヴァルツに戻したりと慌てながら眉をひそめ、最後には困ったように俯いてしまった。
「…迷惑になりますわ」
小さな声は、どうやらサリアも少しは寂しかったという事実を教えてくれる。
「どうせ褥を共にしているのだろう。夜にでも甘えればよい」
「な!そ!何を言っているのですか!!婚約者とはいえ、婚前の二人がそんなっ!はしたない!!」
「…話すだけなら何もなかろうに…」
ヴァルツの含みのある言葉を深く考えすぎたサリアが、早合点だったと気付いて顔を真っ赤に火照らせる。
「私も毎晩ミモザの元に通っているぞ!」
「ぇえ!?」
流石に可哀想かとヴァルツは自分の行動を教えてやるが、さらにサリアを赤くさせるどころか隣のミモザから凄まじい眼差しを受けてそのまま固まってしまった。
「…サリア、気にしないで頂戴。少しお話をしているだけだから」
固まるヴァルツを放置してミモザはサリアに微笑むが、困惑するサリアの隣ではコウェルズがイタズラを思い付いた笑みを浮かべている。
「私から触れていいなら今晩にでも遊ばせてもらおうかな」
「結構ですわ!!」
案の定コウェルズはいらない言葉を口にし、光の速さで拒絶される。
「…そんなに強く」
コウェルズには苦笑いを浮かべるしかない状況だが、思いの外に切ない声色だった為かサリアの火照っていた頬が一気に冷めて、浅黒い肌の中に慌てた白を混ぜた。
「あ、ち、違いますわ…あなた様は毎日激務で疲れていらっしゃるから!」
拒絶したわけではないのだと腕に手を添えて、その添えられた指先にコウェルズはさらりと触れて。コウェルズの肌の白さの中で、サリアの浅黒い指はさらに細く見えるようだった。
「疲れてるからこそ、癒しのひとときがあれば嬉しいんだけどね」
「…っ」
傍目も気にしないコウェルズの態度に再度サリアが赤くなり俯いた所で、次に口を開いたのはクレアだった。
「私の部屋にも最近よく押し入りがくるよー。ね、三人とも」
やや遠い目をしながらクレアが笑いかけた相手は妹姫達だ。
「だってクレアお姉様、もうじきいなくなっちゃうんでしょ?」
「それまで一緒にいてくれても…バチは当たりませんの…」
コレーとオデットが悲しげに眉をひそめて、フェントが静かに頷く。
クレアはもうじきエル・フェアリアからいなくなる。
それはクレアが決断した事であると同時に、変えられない人生の道だ。
「スアタニラ国とはどうなっていますの?」
エルザの問いかけに、クレアの表情は曇った。