エル・フェアリア2

□第47話
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第47話


見渡せば、訓練に明け暮れる騎士達の眼差しに今までとは違う焦りが窺える。

騎士団長クルーガーが副団長のオーマと共に訪れたのは、王城敷地内に設けられた騎士達の訓練場のひとつだった。

四ヶ所あるうちのひとつであるこの場所は剣術武術と魔具の総合訓練場として使われており、任務に当たらない騎士達が己の腕を磨く為に精を出しており。

彼らの眼差しに宿る焦りは、クルーガーとオーマの姿を捉えたことによりさらに力を宿らせた。

コウェルズが思案しクルーガーが発表した、使えぬ騎士達を間引くという強行策。

「随分と心を入れ替える者が増えましたね」

「でなければ困る」

騎士達の訓練を眺めて、クルーガーは隣に立つオーマに長く重苦しい溜め息を聞かせた。

現在訓練を行う騎士達の大半が先程まで任務に従事していた者達だ。

ファントムの襲撃以来騎士達の任務は増えることになり、間引きの件が発表されるまでは訓練を行う者達は減っていたのに。

騎士達の訓練は数ヶ月に一度行われる合同訓練以外は各自に任されている。

クルーガーが若かった頃は、合同訓練すら無かった。

大戦が終わり、ぬるま湯のように優しくなった世界に産まれた者達には、現状は辛いものだろう。

ひたむきに強さを求めるでもなく、間引かれないように訓練を行うなど、かつてのクルーガーの仲間達が目にしたらどう感じるだろう。

騎士達の訓練風景に昔の仲間達を重ねながらも一人一人を観察するクルーガーの視線は、隣から静かな笑い声がふと聞こえてきたせいで逸らされることになった。

隣に目を移せば、オーマが失笑を浮かべながら騎士達を眺めていて。

「変わらない者は変わりませんがね…王族付き候補からの情報ですが、愚か者が一人、もし自分が間引かれるなら父親に掛け合って団長を退団させると宣う輩もいる様子です。あなたのファントムとの繋がりを糾弾してね」

やれやれと呆れ果てるオーマに、しかしクルーガーは否定はしなかった。

「すればいい。ファントムと通じていたことは事実だ。仕方無いだろう」

事実を否定するつもりはない。まだファントムの正体が王族であるロスト・ロードだと知られてはいないが、その事実を抜きにしようがしまいが退団が決まるなら、クルーガーは足掻くことなく受け入れるだろう。

ファントムの正体が王族であれ、リーン姫を救い出す為であれ、国を裏切ったことには変わりなく、守るべき部下達を殺したのだから。

静かに受け入れようとするクルーガーにオーマは口を閉ざす。

クルーガーが騎士団の中で最も信頼するオーマはしかし、

「そうなったら、団はお前に任せるぞ」

「嫌ですよ」

クルーガーがいなくなる騎士団を拒絶した。

まるでクルーガーが何を言うつもりなのか理解していたかのように素早く返された言葉に、眉をひそめる。

「…お前は騎士団長の座を狙っていたと思うのだがな」

オーマは大戦後に入団した騎士だが、実力と正攻法の策を上手く使いこなし、早々に高い地位まで駆け上がった。

上昇思考だけで言うなら誰もオーマには敵わないはずで、オーマが団長の座を狙うのは当然だというのに。

「騎士団にはまだまだ貴方が必要です。貴方が拘束された時に痛感しましたよ。私の力だけではまだ騎士団をまとめられないと」

弱音ではなく本音を口にするオーマは、自分の実力はまだ団長という立場には届いていないと語る。

「…それは私がファントムと通じていたが故の動揺も手伝ったことが理由だ。お前の力不足ではない」

「それでも上手くまとめられてこそ団長というものです。私には出来なかった…悔しいですが、まだまだあなたから学ぶ余地があるという事ですよ」

わずかな期間とはいえクルーガーがいない騎士団をまとめる立場にあったオーマ。

端から聞くかぎりではオーマの手腕は見事なものだった様子だが、完璧主義の本人は気に入らない箇所が多すぎたらしい。

その融通の利かない生真面目な性格は昔から変わらず、生真面目すぎるとからかわれるニコルよりはるかに難しい性格で。

「あまり考えすぎるな。団長になってからでないと見えないものもあるんだ」

いつか自分がいなくなったら。

それを考えた故の発言に隣でオーマがわずかに俯く様子を、クルーガーは気付かないふりをして流した。


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