エル・フェアリア2

□第43話
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 そして強引に窓から飛ばすが。
「…こいつ」
「はは…少し休ませてからにしなよ。お前の朝食の肉でも狙ってるんだろう」
 窓から飛ばそうとしてもすぐにセクトルの頭に舞い戻る伝達鳥が、レイトルの言葉に同意するように「キ」と一度だけ鳴いた。
 長い距離を飛んだのだ。それなりの褒美を寄越せという事だろう。
 セクトルは渋々諦めたように窓を閉じて、レイトルと同時に扉に目を向けた。
 誰かが廊下を歩きこちらに向かってくる気配。
 足音は騎士のものではなく、どこか間抜けている。
 恐らく彼だ。二人が同時に気配の主に気付くと同時に、扉は遠慮がちにコンコンと叩かれた。
 これが騎士仲間なら遠慮もなく扉を開けるし、隊長クラスならもっと扉を叩く力は強い。
「−−レイトル、そろそろアリアの護衛に行く時間だよ」
 顔を見せたのは二人の予想通り、魔術師のアクセルだった。
「わかったよ。用意するから中で待っていて」
「うん」
 アクセルは室内に入ると後ろ手で扉を閉めて、そのままセクトルの頭上の伝達鳥に目を止めて固まった。
 どこか嬉しそうなのは、堅物に見えるセクトルの意外な一面を見た気がしているからか。
 その地味に和やかな視線に気付いたセクトルは伝達鳥を下ろそうとするが、やはり言うことは聞いてくれなかった。
「昨日はミシェル殿が初めて護衛に立ったんだろ?どうだったか聞いたか?」
「あー、問題なく終わったとしか聞いてないけど」
 諦めてベッドに強く腰を下ろしながらセクトルが訊ねるのは、昨日初めてアリアの護衛に立ったミシェルの事だ。
 レイトルはアクセルと、セクトルはトリッシュと組むことになり、不馴れなミシェルとは隊長であるモーティシアが組んだが、モーティシアに裏があることはアリア以外全員が気付いている。
「…そうか」
「ミシェル殿もアリアを狙ってるもんな」
 昨日のミシェルの様子をセクトルが聞きたがる理由はひとつだけで、アクセルは自分には関係無いとばかりに屈託なく笑う。
「…ねえアクセル。一応聞くけど…“も”の理由は?」
「えー、言わす?」
「俺達は先の読めない三角関係を楽しんでるんだ。当事者は黙ってろ」
「…酷い言い草だね」
 ミシェル“も”アリアを狙っている。それはレイトル“も”狙っていると暗に示す言葉だ。
「レイトルもミシェル殿も隠すつもりが無いところがね。今のところレイトルが有利みたいだけど、モーティシアは複雑みたい」
 現状でレイトルの方がアリアに近いと周りも気付いている様子で、魔術師団員であるアクセルはモーティシアの心境をさらりと教えてくれる。
「私は魔力が少ないからね」
「モーティシアは良くも悪しくも仕事人間だから。アリアの夫候補に名前が出てる中で有力な二人はそこまでアリアに興味ないみたいだし、ミシェル殿も候補に上がってるから、モーティシアはミシェル殿の肩を持ちたいみたい」
 そこまで言われると、レイトルももはや複雑な笑みを浮かべることしか出来なくなる。
 どういう経緯で治癒魔術師護衛部隊が選ばれたのか。
 レイトルはすでにセクトルから聞かされている。
 アリアの兄であるニコルと魔力の少ないレイトル以外の四人は有力な夫候補としてアリアの側に集められたのだ。
 モーティシアも勿論その中に入ってはいるが、モーティシア自身は自分より魔力の質が良いものをアリアの夫にしたいらしい。
 もしモーティシアの魔力が彼自身の中にある基準に満たされていたなら、すぐにアリアを落としにかかった事だろう。
「もうさ、ミシェル殿が護衛に入ってくれるって決まった瞬間からルンルンだったよ。初めて聞いたよ。モーティシアの鼻歌」
 ニコルの抜ける穴を埋めるのが候補に名前の上がるミシェルなら、モーティシアはさぞ喜んだ事だろう。
「まだ最有力の二人も諦めてないらしいけど、当分はミシェル殿とアリアをくっつかそうと躍起になるかもな」
 最有力の二人とはガウェと魔術騎士のトリックの事だ。
 ガウェはリーンしか目に入っておらず、トリックはアリアとは歳が離れすぎているから可哀想だと自ら辞退したらしい。
「あと何人くらい候補いるんだ?」
 訊ねるセクトルに、アクセルは「うーん」と首をかしげて指を折り始める。

 
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