いにしえほし

□第11話
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「あの人が誰かなんて知らない…夢に出てくるだけなんだから!!」

拒絶するように、否定するように。

リオは衣服からオズの腕に身を寄せる。

「…どんな夢だ?」

これ以上は話すことなど無いと口を閉じようとしたリオに、ルトは夢の内容を訊ねた。

とたんに体がびくりと跳ねるのを、オズは密着した体から感じ取った。

話したくないと首を横に振るが、ルトは許さない。

「話すんだ」

リオの空いた肩に手を置いて、やや強く命令するように。

「兄貴、やめてくれ」

リオの悪夢の内容はオズが今までずっと知りたかった事だが、それでも無理矢理聞くなどしたくなかった。

ルトの手を払って、リオをしっかりと抱き締める。

睨み付けるようにルトに目を向けるが、ルトは諦めた様子は見せなかった。

“その娘は逃がさぬぞ”

ファルナラとももを連れて逃走をはかるルトから、男はももを奪った。

ファルナラはももを守ろうとその場に残った。

「…俺は王城に行くつもりだ。ファルナラとももは王城に連れていかれるだろうからな。…だからあの男の情報が欲しい。あの男はリオだけじゃなく、ももも狙っていたんだ」

リオがいなくなってから何があったのか。

2人を助けるという口振りに、オズに身を寄せたままリオはまた顔を上げて。

「…ずっと、夢の中で…」

小刻みに震える様子は、悪夢を見た後によく似ていた。

「夢の中で…私を…無理矢理」

犯そうとする。

耐え難い苦痛を訴えるように、リオは言い切った。

これ以上の恐怖など有り得ないと訴えるように。そしてすぐにオズに顔を向けて。

「私…こんな夢、知られたくなくて…だからっ」

オズ以外の男に触られる悪夢。

知られたら嫌われてしまうのではないかと。

「…リオ」

ぼろぼろと涙を溢し始めるリオを、オズは強く抱き締めた。

抱き締める以外に何が出来るというのだ。

まさかそんな悪夢だなどと思いもしなかった。

知られたくなかった理由。

リオがどれほど悪夢を恐れていたかをオズは知っている。

その悪夢をオズに頑なに教えなかったことも、内容がリオにとっておぞましすぎるものならば。

「リオ、大丈夫だよ」

悪夢を見た後のリオを慰めるように呼び掛けながら、今は悪夢の中ではないと教える為に腕を力を込める。

こんな単純なことしか出来ない自分が歯痒いが、これが一番リオを安心させるには効果的なのだ。

リオもこれ以上は耐えられないとでも言うようにオズの腕の中に身を隠して震え続けて。

もうやめてくれと視線だけで切実に訴えかければ、ようやくルトもリオから目を話してくれた。

痛みを堪えるように体勢をわずかにずらすが、今のリオの状況ではルトの傷を癒すことは出来ないだろう。

「お前達はこれからどうするんだ?」

少しずつ息を吐くように静かに問いかけられて、オズは俯いた。

リオとは白夜の地に向かおうと話してはいたが、それは白神殿が襲われる前の話で。

ファルナラとももが捕らえられたならば救い出すべきなのだろうが、あの男も王城に向かう可能性がある。

オズも2人を救いたい思いはあるが、今のリオの精神状況では不可能だろう。

2人を取るか、リオを取るか。

オズからすれば、迷うなど有り得ない二択だ。

薄情と罵られようが構わない。

だがルトはそれに気付いているかのように否定せずにいてくれた。

「…あの男がリオを狙うなら、リオは王城に来るべきじゃない」

否定せずに、むしろリオは来てはいけないと。

その言葉にリオがわずかに困惑の様子を見せたが、男に対する恐怖とファルナラとももを心配する気持ちがごちゃまぜになってしまったのだろう、何も言葉に出来ないまま固まってしまった。

「…少し休もうか。考えるのは、まだ先でいい」

ルトの提案に妙に安心して頷いてしまった。

きつい戦闘と、訳のわからない事態に襲われたのだ。

森林地帯ならばリオを守る風が吹いてくれる。

ルトの提案に甘えるように、オズはリオを抱いたまま肩から力を抜いた。


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