いにしえほし

□第10話
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勢いあまって前のめるアキトは、無様に倒れる寸前で体勢を整えて難を逃れる。

そして怒りも忘れて呆然と。

「…何をした?」

クロード達もすぐにアキトの元へ集まった。性格には、アキトの目前の、壁であったはずの場所に。

そこはクロードが指先を這わせた場所のはずだ。

だが今は、白い霧のように朧気に通路が出現している。

「言え。何をした」

「何も…わかりません…ただ、破滅の乙女の術者を…」

殺したいほどに憎む存在を、思い浮かべていただけだと。

困惑するアキトは無意識に目前の通路から体を離した。そうすれば通路は消え去り、再び白いだけの壁が現れる。

「…」

白神殿は、疚しい心を持たずに純粋に中に入りたいとだけ願えば扉が開かれる。

それが、神殿内でも同じ要領なのだとすれば。

クロードは壁に手をつくと、頭の中にファルナラだけを思った。

愛しい女を。

ファルナラに会わせろ、と。

「!?」

ふと、手のひらの冷たい壁の感触が消え去る。

同時に目の前に通路は現れた。

「…念じることだ」

からくりが1つ解ける。

「念じろ。それだけを。向かいたい先をだ。それだけで道は開く」

なぜか理解できた。この通路の先にファルナラがいると。

「お前達は中庭に向かえ。私達はファルナラを回収してから向かう」

先ほど分けた二手のまま、クロードは後ろに控えるレスカ達を見ずに呟いた。

アキトは不満げに眉を寄せるが、通路を歩くクロードにリスクと共にしぶしぶついて来る。

霧のような通路。

視界に任せてしまうと精神がおかしくなりそうだった。

それでもクロードは2人を連れて慎重に通路を歩いていく。

気持ちは逸るが、焦るな。

まだこの神殿の全てを把握した訳ではないのだ。

ただファルナラを思い、ファルナラがこの先にいると確信を以て。

開けた空間。

そこは先ほどまでいた広間によく似ていたが、唯一の違いはわずかに離れた位置にある、蠢く鎖の存在だった。

「何だよ、あれ…」

「…」

嫌な金属音を鈍く響かせながら蠢き続けるその鎖は、クロードの力から生み出されたもので間違いない。

アキトとリスクは気味の悪い光景に眉をひそめるが、

「うぅ…」

鎖の中から、意識の薄いくぐもった声が漏れる。

女の声だとは声質からわかったが。

あまりに弱々しい声で。

「−−…ファルナラ」

鎖の下に、誰かがいる。

そう思うのと、それがファルナラであると直感で気付くのは同時だった。

クロードはすぐに駆け寄り、意思を持ち勝手に動く鎖から思考を取り上げる。

そうすれば鎖は死に絶えるように動きを止めて。

「ファルナラ!」

鎖の下に見えた白い肌に、クロードは海に沈む者を引きずり上げるように、肌に手をかけて鎖からファルナラを救い出した。

「…!?」

そして驚きに言葉を無くす。

クロードの知るファルナラは、男とも女とも取れない体つきをしていたはずだ。

だというのに。

無惨に裂かれた衣服から露出するのは、見事な女の体だ。

鎖は動きを止めたが、悲惨な状況にファルナラを陥れていたことが一目でわかった。

白い肌に残る痛ましい鎖の痕は赤く、口内にも侵入している。

それをゆっくりと取り払い、さらにファルナラの全身を鎖から離そうとして、鎖が下半身に繋がっている状況に瞠目する。

一昨日の夜、クロードは自らの意思で鎖をファルナラの体内に残した。そしてそのまま苦しめた。

だが、ここまでの事を。

クロードから自立した鎖はファルナラを責め続けたはずだ。

ファルナラを求め、ファルナラと交じり合おうと。

ファルナラの膣内と腸内を蹂躙する太い鎖をゆっくりと抜き出せば、血の交ざる愛液と潮の匂いが嫌でも鼻についた。

気絶しているファルナラの表情は青白く憔悴しており、どれほどの苦痛の中にいたかが目に見える。

鎖を全て取り払い、クロードは自らの上着を脱いでファルナラの体にかけて。

ファルナラのあまりの姿にリスクとアキトは言葉を無くしており、クロードもファルナラを抱き寄せながら生気の無い頬を撫で続けた。

何度も確認するのは、ファルナラの全身だ。

豊かな胸、細い腰回り、顔つきも女のもので、身長など全体的には小さくなった気がする。

 
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