いにしえほし

□第5話
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第5話


…リオ

朝日がようやく顔を見せて辺りを照らし始めた頃。

オズは目の前に厳かに存在する白神殿にそっと両手を合わせた。

リオを無理矢理連れて第3都市ジュリアを後にしようとしたのはつい先ほどだが、どうしようもないことから喧嘩をしてしまって、リオはオズの手を振り払ってしまった。

「…なんで?」

リオを守る自然の力は風となりオズに襲いかかった。

それは自然がオズをリオの敵と認識したということだ。

つまりリオが、オズを拒絶した。

なんで?

守りたかっただけだ。

リオを危険から。

この危険な都市から。

だって、


−−リオの味方は俺だけだろ


先ほどリオに告げた言葉を思い出す。

リオの味方はオズだけだ。

リオにはオズしかいないのだ。

それは二人で旅を続けてから今まで、そしてこれからも変わらない事実のはずだ。

今までリオをたった一人で守ってきたのだ。

リオが心を許して安心できる場所はオズの腕の中以外には存在しない。

それを、今更。

「…」

そっと白神殿の壁から手を離して、オズは夜に届いた手紙を取り出した。

不思議な手紙。

それはリオに宛てたものだった。

リオを知っている女からの、リオを保護したいという内容の。

「っ…」

手紙を開き、ぐしゃりと握り潰す。

手紙の女はどうやらリオを育てた術者ジュリエルの母親らしい。

今までリオを案じていた。しかし白神殿からは出られない体である為にリオを迎えには行けなかった。

ようやくリオが第3都市ジュリアに訪れてくれて、接触する事が出来た、と。

−−ふざけんな

リオを保護したいだと?

今までリオを守ってきたのはオズだ。これからも変わらない。変わるわけがない。

それを変えようという女に、リオを会わせられるはずがない。

それこそ罠かもしれない。

リオが慕うジュリエルの名前を使い呼び出して、寝首をかこうと。

だがそれ以上に…

オズを苛立たせたのは、手紙の内容が事実だったらと、それだけだ。

手紙に書かれていた事が事実で、リオを保護することになったら。

きっとリオはその女を慕う。

ジュリエルの母だ。リオが慕わないわけがない。

そんなの…駄目だ。

リオが安心していられるのはオズの側だけでなければ。

それを奪うなど、許さない。

「…リオ」

握り潰した手紙を地面に捨てて踏みにじり、オズは再度白神殿を見上げる。

リオが走り去った先にあったのは、この神殿だ。

片手を白い壁に触れさせたまま、ぐるりと一周したのはついさっきだ。

扉も窓も何もない、ただの白い巨大な円柱。

中がどうなっているのかはわからない。

ひやりと冷たい壁は、とても静かでこの都市には場違いだ。

だがきっと、リオはこの中にいる。

どうにかして中に入らなければ。

どうすればいい?

わからない。円柱の天辺にでも扉があるのかとも考えたが、階段も無しにそんな場所、飛ばなければ無理だ。

「…リオ」

情けない声で、もう一度リオを呼ぶ。

どうしてオズから離れたのだ。

危険な場所かも知れないのに。

いや、危険な場所なのに。

オズのいない場所など危険に決まっているのだ。

こんな訳もわからない建物に閉じ込められるなど、きっと怖がっている。

早く助けてやらないと。

しかしどうやって…

頭をぐるぐると何度も働かせて、オズは昨日出会った術者を思い出した。

ファルナラと名乗った、男とも女とも知れない術者。

何かあるなら現神殿に来いと告げられた。

「…」

現神殿なら、白神殿の事も知っているはずだ。

興味が沸いたふりをすれば何だって教えてくれるだろう。

術者達なら、入り口も知っているはずだ。

「…現神殿」

本当なら誰の力も借りたくはない。だが。

決意を固めて、オズは白神殿の壁から手を離した。

入り口を聞くだけ。

それだけだ。

ジュリアの現神殿に向かう為に白神殿に背を向けて、一度立ち止まり見上げて。

−−リオ

必ず助けるから

そう心に誓って、オズは現神殿へと歩みを進めた。


−−−−−

 
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