エル・フェアリア2

□第103話
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可視化された異常自体と、全員の全身を舐める痺れと、髪が逆立つ感覚。

空気ではなく、大気そのものが変化を見せたような。

「アクセル!なにが起きているんじゃ!!」

リナトに怒声で訊ねられて、アクセルは怯えるように首を横にふって。

「…ニコルの周り…魔力の渦が……魔力が…」

ニコルの魔力がおかしいと言われて、全員が思ったことはひとつだった。

「暴発か!?」

「違います!暴発とは違います!!」

だがアクセルは否定する。

暴発ではない。

「そんな、簡単なものじゃない…」

大気を震わせて球雷を発生させるほどの異常など、たかが一人の魔力の暴発程度で説明できるものではない。

「モーティシア!!」

リナトは命じる為にモーティシアを呼び、モーティシアは呼ばれただけで命令を理解してアリア達へと防御結界を張る。

イニスを取り押さえている為に最もニコルの近くにいたセクトルを掴んで引き下がらせるのはクルーガーで、まるで子供を放るようにアリア達の元に投げて防御結界の中に入れた。

イニスと男はそのまま。

扉近くにいるアクセルやケイフとシーナ、イストワール達は、アクセルを守るクラゲが突然巨大化して結界となる。

ミシェルは己の力でガブリエルを含めて結界を張った。

三団長はそれぞれが自身を守れる。

イニスと男と侍女達は捨て置かれた。

放置されたことに気付く侍女達は悲鳴を上げながら這いずって部屋の奥へと隠れていく。

「ニコル…落ち着いてくれ」

下手をすれば暴発など生ぬるいほどの新たな惨劇となる。

クルーガーは発生しては消滅する球雷をギリギリのところで躱しながら、懸命にニコルへ話しかけた。

「ニコル…落ち着くんだ……頼む」

アリアを襲われたのだ。落ち着けるはずがないことはわかっていた。

しかもアリアだけではない。

クルーガーは姿を見たことはなかったが、ニコルが大切に抱き上げている女性が報告に上がっていたテューラだろうことは明白だった。

愛しい女を傷つけられて黙って見ているだけの男などいないだろう。

ましてニコルは、魔力値に優れているのだ。

その魔力はもしかすると、ここにいる三団長でも止められないかもしれない。

「……ニコル…私の声が聞こえているか?」

どうにか落ち着いてほしくて、なるべく穏やかに訊ねる。

近付いていくクルーガーには、ニコルの身体から溢れている魔力の霧の異変にも気付けた。

基本的に魔力は黒いものだ。

ニコルもそうだった。

しかし今のニコルから溢れる黒い魔力の中には黄金の輝きが混ざっている。

色付く魔力を持つのは、この国では王家のみ。しかしなぜニコルの魔力が黒いのかと、ニコルの正体が発覚した頃にクルーガーとリナトは話し合ったことがある。

ニコルが入団した頃から他者と比べても奇妙な魔力だと思っていたが、その魔力の色が黒いから単純に質量が凄まじいとだけ思っていたのだ。

その魔力の中に、今はなぜ黄金が宿るのか。

今現在、黄金の魔力を持つのはコウェルズのみだ。かつてはロスト・ロードも持っていた。

ニコルに宿る黄金の魔力は、まるで内部に存在していた核が凄まじい外殻の流出のせいで覗き見えているような状況に思えた。

「…そちらの女性も怯えてしまう。ニコル、落ち着くんだ」

どうにか止めようとするクルーガーはニコルへと手を伸ばして。

ニコルのそばに発生した球雷が突然、ニコルの黒い魔力で激しく包まれた。

黄金が混ざる中で黒い魔力は球雷を吸収するかのように収縮する。

だがそれを見た時、クルーガーが出来たのは後ずさることだけだった。

収縮ではないと肌で察したから。

圧縮だ。

大気を震わせるほどのニコルの魔力の慟哭に合わせて自然発生した球雷が、魔力に包まれて凄まじく圧縮されていく。

クルーガーの全身が危険を叫んでいた。

そしてその危険を、リナトとヨーシュカも感じ取る。

表情をきつく強張らせた三団長が出来たことは、自身と部下達を守る為に最強の結界を張ることだけだった。

「お前達は下がれ!!」

クルーガーは廊下にいるイストワール達に告げてからミシェルとガブリエルに結界を張り、リナトは防御結界を張るモーティシアの前に立って更なる結界を何重にも張った。

ヨーシュカもアクセルを背中に隠し、室内そのものに凄まじい結界を張る。

何が起きるかわからず、何が起きても不思議ではない。

そんな中で。

 
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