エル・フェアリア2

□第103話
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「よ……ヨーシュカ団長!!!!」

唯一扉の外にいたアクセルが自身の首に絡みつくクラゲを両手で掴んで三団長の一人に呼びかける。

クラゲは呼びかけに応じるようにブワリと身体から黒い霧をわずかに放つ。

「早く来てください!団長!!」

泣き声にも聞こえそうなほど情けない声だったが、立場のある人間を呼んでくれたアクセルへとモーティシアは安堵の表情を見せた。

「…ガブリエル嬢、これはどういうことでしょうか?」

アクセルがヨーシュカを呼んだことで少しは落ち着けたのか、モーティシアは冷静にガブリエルへ話しかける。

ミシェルの背中に縋るガブリエルは、名指しで呼びかけられたことにビクリと肩を震わせた。

凄まじい血の匂いと悪臭が漂う中で誰も冷静でなどいられない状況で、唯一何とか落ち着こうとするモーティシアの声すら、主犯であろうガブリエルには意味を理解できないようだった。

目の前で人が人でなくなった状況に怯えるガブリエルを背中に隠しながら、ミシェルは窺うようにモーティシアに目を向ける。

「…モーティシア殿、今はとにかく、誰か人を……」

「アクセルが魔術兵団長を呼んでくださいました。人は来ます。それまでに…何が起きたのかを誰でもいいから話しなさい!」

焦りなのか怒りなのかわからない声で、モーティシアは辺りを見渡す。

「アリアを襲おうとしたのはあなたですか?ガブリエル嬢!!」

「モーティシア!!今は落ち着かせてやってくれ!!」

「我々の目が届かない場所でアリア達が襲われたのです!あなたこそふざけているのですか!?」

叫ぶミシェルにモーティシアも怒声を返し、落ち着け、とモーティシアの側に駆け寄ったのは男から離れたセクトルだった。

その間にまた三人の侍女達が動こうとして。

「その場から動かないでください!!」

モーティシアの叱責に強く怯えて。

「わ、私たちは、何も…私たち関係ないわ!!」

「もういやああぁ!!」

一人が床に腰を抜かした後、残った二人も怯えて泣き叫び、同じように床にへたり込んだ。

「…………ケイフ!!」

「動かないで!」

そこにガブリエルの前で蹲っていた女が扉の近くに走り、モーティシアの叱責も無視して誰かに縋り付く。

真っ二つとなった男とは反対側に身体を強張らせて転がっている男の元へ女は駆け寄り、何度もその名前を呼んで。

「ケイフ、ケイフ!!」

女が男を揺さぶり続ける。その名前にぴくりと反応を見せたのはニコルで、片手でテューラを抱き上げたまま、もう片手を二人の方へ翳した。

その手から、再び金の混ざる黒い魔力が溢れて。

飛ばされる、その寸前で。

「兄さん!!だめ!!」

黒い魔力の霧が、アリアの声で掻き消える。

ニコルはケイフとシーナを睨み続けたままだったが、再度アリアから「やめて」と頼まれて、魔力を溢れさせた手を強く握りしめ、再びテューラを抱き寄せた。

そしてその怒りの眼差しは、ガブリエルに向く。

ガブリエルはカタカタと震えながらミシェルの背中にさらに縋り。

「……どうしてですか?ニコル様…」

ニコルの隣で、イニスが呟いた。

後ずさっていたイニスが、テューラとアリアを打って怪我をさせたのだろう棒を手にしたままニコルに近付く。

その棒の先は、誰が見ても眉を顰めるほどの棘のような突起が付いていた。

「どうして、ニコル様!!どうしてそんな女を抱きしめるのですか!?」

ふらりと近付いたかと思えば、イニスは掴みかかる勢いでニコルへ突進して。

「止まりなさい!」

途中でモーティシアが止めに入るが、イニスは狂ったような眼差しをニコルへ向け続けていた。

「その女はニコル様を騙しているんですよ!?汚いくせに!!身の程も知らずに!!」

イニスが叫ぶ度に、ニコルの腕の中でテューラが強く震える。

怯えきって萎縮するテューラの額に、ニコルはイニスの声など聞こえていないかのように優しく口付けた。

自分がいると、守ってやると伝えるように。

ボロボロに傷付けられたテューラは、その唇の感触に安心するかのように、強張る身体からほんの少しだけ力を緩める。

「…なんでよ……」

それを、目の前で見せつけられて。

「なんでそんな売女を大切にするのですか!?あなたには私がいるのに!!」

ニコルに掴みかかろうとするイニスを、モーティシアは止める。だが女性に対して遠慮してしまったモーティシアの力ではイニスを止めきれず、ニコルへと手が伸びる瞬間にセクトルがイニスを床に捕らえた。

ダン、と強い音が響き、イニスはセクトルにのしかかられて床に伏せる。

「痛い痛い痛いいたいいたいぃ!!!ニコル様助けて!!ニコル様ぁ!!」

 
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