エル・フェアリア2

□第101話
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第101話


気絶したままのルードヴィッヒとウインドは同じ救護室に寝かされて、癒術騎士であるイヴの緩やかな治癒魔術を同時に受けることとなった。

二人とも顔面の怪我は早々に落ち着いたが、身体中に受けた傷は完全に同時に癒されている状況なのでどこまで回復しているかは目には映らない。

ルードヴィッヒを見守るのはジャックで、同じくウインドを見守るラムタルの武人と共に受けた説明では、まだ試合の勝者が決まらない状況なので一気に治癒魔術を施すことは出来ないということだ。

数秒の差であれ、どちらかが先に回復して目覚めることのないように。

次の試合までに先に目覚めた者が勝者となるから。

その為に二人を癒すのは治癒魔術に長けたイヴだけだ。

『ジャック殿、ここは彼女に任せて、殿下の元に行かれてはどうか?』

ラムタルの武人が口にする殿下とは、コウェルズの事なのだろう。

確かにコウェルズの試合が始まる頃のはずだ。

ルードヴィッヒとウインドのせいでおかしな空気となってしまった出場者達と観客の為に行ったエキシビジョン戦の効果は抜群で、剣術試合も無事に始めることが出来たと聞く。

コウェルズの試合は二戦目なので、もうそろそろ始まってもいいくらいだ。

ジャックは心配そうにルードヴィッヒを見つめるが。

『…コウェルズ様の試合が終わったらすぐに戻ります』

ここにいる者はエテルネルの正体を完全に知る為に、名前を偽ることもせず頼む。

イヴとラムタルの武人は頷いてくれて、ジャックは後ろ髪を引かれるような表情を浮かべながらも足早に救護室を出て行った。

闘技場内の救護室なので、走れば五分とかからずグラウンドに戻れるだろう。

『…まさかここまでやられるとはな』

ラムタルの武人はジャックを見送ってからウインドに近付き、今は眠ったままの生意気なウインドの額を小突く。

『おやめください…何が引き金で目覚めるかわかりません。勝者が決まるまでは公平な立場でいてください…』

『わかったわかった』

武人は生真面目なイヴの非難に笑いながら、ジャックが去った扉をまた開ける。

そして深々と頭を下げた。

「ロスト・ロード殿下、お待ちしておりました」

救護室へと足を運ぶファントムは、見た目だけならば自分より一回りは歳上の武人へと優雅に笑いかける。

「ウインドの世話は疲れただろう。ご苦労だったな」

「疲れはしましたが、久しぶりに見た太い根性の持ち主だったので楽しめましたよ」

ファントム相手にも気安く話す武人に、イヴが強く眉を顰める。

「エル・フェアリアの少年とは互角の戦いでした。縛りのない状況ならウインドの優勢でしょうが、もしそんな状況で戦っても、かなり苦戦するでしょう」

「紫都の者は昔から武術に長けているからな。この若さでウインドとここまで戦えたなら、将来は実力者となるだろうな」

「そうでしょうね」

武人はルードヴィッヒをかなり気に入った様子を見せながら、イヴに合図を出して治癒魔術を止めさせる。

最低限の治癒は終わっているのだ。それでもイヴは大会の進行が崩れることを不安視するが、武人に背中を押されて救護室から退出させられた。

「我々は扉の外で待ちます」

「感謝する」

ファントムだけが、室内にいる状況。

一気に静まり返る救護室内で、ファントムは眠るルードヴィッヒへと近付いた。

そして傷の治った顔に触れ、瞼に触れて。

片目をゆっくりと開かせる。

鮮やかなほどの紫の瞳と目が合い、ファントムは黄金の魔力を瞳から放ち、ルードヴィッヒの瞳から脳内を読み取った。

ルクレスティードの千里眼の力を使い、ルードヴィッヒの脳裏から一人の若者の記憶を探す。

淡い青髪の、少年とも思えるほどどこか情けない若者を。

ルクレスティードの千里眼と絡まった原子眼の持ち主は、ファントムと対立する可能性のある者か、それとも味方に引き入れられるのか。

魔眼を持つフレイムローズはファントム達に対して無力化することはできたが、もし原子眼の持ち主がその力を以って対立する立場を取るというなら、今後の行動にも影響を及ぼすことになるのだから。

果たして、彼はどうなのか。

ルードヴィッヒの脳裏を探って、探ってーー

 
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