エル・フェアリア2
□第101話
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軽い駆け足で戻ってきたジャックを、ダニエルと共に迎える。
イリュエノッドの陣営内で、コウェルズは戦闘場に立ったルードヴィッヒを満足そうに眺めていた。
まさか四強となるなんて思ってもいなかった。しかも相手はウインドだ。
ラムタル陣営はウインドに手を焼いていた様子で、ルードヴィッヒの勝利が告げられた時には安堵のため息を溢していた。残念ながら剣術出場者であるイデュオが対戦相手のオリクスに第三試合で負けてしまった為にラムタル国としては敗退となったが、そんなことよりもウインドから解放されることへの安堵感の方が強そうだった。
ジュエルはジャックが戻ったことで三人分のお茶をわざわざ用意して持ってきてくれる。
コウェルズが最初に受け取り、ジャックも受け取る。ダニエルは「自分はいいから」とジュエルに譲り、ルードヴィッヒの勝利に四人で小さな祝杯を上げた。
審判が気を利かせて少しだけルードヴィッヒに休憩時間を与えてから、盛大な花火と絡繰りの舞う後で試合が始まる。
が、四人ともあまり見てはいなかった。
「ルードヴィッヒ様、勝てますでしょうか…」
「さすがにもう無理だろうね」
少し渋みの強くなったぬるいお茶を飲みながら、しみじみと伝える。
クイは第三試合終了後から第四試合の開始ギリギリまで自国の治癒魔術師からの治癒を受けていたが、ルードヴィッヒは試合規定に則りウインドと同時同量の最低限の治癒を受けた後は目覚めるまで見守られていただけのはずだ。
気絶するほどに体力を消耗していたのだから、今も立っているだけでやっとだろう。
根性だけなら優勝レベルだろうが、それだけで勝ち上がれるまぐれ当たりはもはや無い。
諦めモードでいれば、陣営内のイリュエノッドのサポート達も試合を見守るその目は優しすぎるほどの生ぬるくて。
「でも…私たちはどうやら、ルードヴィッヒを甘く見過ぎていたようだね。ここまでやってくれるなんて。戻ったらどんな褒美を用意しようか…」
ルードヴィッヒは充分強い。そう彼の実力を改める。
良くも悪くも大会に名前を残したルードヴィッヒの最も強い功績は、大会史上最年少の四強という記録を作ったことだ。
「喧嘩に関して厳しく注意しますよ」
ジャックだけは許せない点を見逃さないつもりでいるから、ダニエルがほどほどにな、とあやしていて。
ジャックとダニエルがいなかったら、大会はルードヴィッヒとウインドの喧嘩試合に引きずられていたことだろう。
おかげで伝説の二人は改めて信者を増やしたが、エル・フェアリアとしてはまあ好都合という解釈をコウェルズはしている。
始まっている試合はやはりルードヴィッヒの防戦一方で、最大の武器である根性も切れ切れの様子で。
隙を窺っては攻撃を繰り出しはするが、普段と比べれば遅いし軽い。
今はあれで全力なのだから勝てるはずもない。
もし試合が明日だったならどうだっただろうか。
少し考えてしまうが、途中で無意味だと悟ってやめた。
それでも諦めず懸命に立ち向かい続けるルードヴィッヒを眺め続けて。
「ーー…よくやった」
ジャックがぽつりと呟く。
それと同時に、ルードヴィッヒが顔こそクイに向けたまま片膝を足場に着いてしまった。
肩で息をして、まるで全身に鎖が巻かれたかのように重そうで。身体がもう言うことを聞かないのだと、誰の目からも明らかだった。
クイも動きを止めて、審判が間に入る。
何かをルードヴィッヒに訊ねて、しかしルードヴィッヒは首を横に振った。
その後一度立ち上がろうとして、よろけて。
再度審判が何かを尋ねた後、ルードヴィッヒは悔しそうに項垂れながらも頷いた。
『ーー勝者、イリュエノッド国、クイ!!』
盛大な花火が片側だけに打ち上がる。
それは、ルードヴィッヒが負けた証拠だった。
見守り続けていた観客からも盛大な拍手が送られた。
いずれもここまでやり遂げたルードヴィッヒを讃えるように。
クイはルードヴィッヒに手を差し出し、肩を貸してやって。
「…行こうか」
全員でルードヴィッヒを讃える為に。
イリュエノッド国のサポートの娘がお茶のカップを受け取ってくれるから、コウェルズ達はすぐにルードヴィッヒの元へと駆け出せた。
拍手と歓声は収まらない。
そんな中で、ルードヴィッヒを迎えに行って。
クイと共に足場に乗って戦闘場から降りたルードヴィッヒは、唇を強く噛んで瞳に涙を浮かべていた。
その悔しそうな表情が、彼を一段と強くさせたと、誰もが気付かずにはいられなかった。
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