エル・フェアリア2

□第101話
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宙に浮いているような感覚があるのに、全身が重く沈んでいく。

その心地良い重みに全てを委ねていたかったのに、何かがルードヴィッヒの心に引っかかり続けていた。

心地良さなどに身を委ねている場合ではないと、引っかかり続けるものが強く叫んでくる。

だが、心地良さの方が勝り続けていた。

まるで誰かに抱きしめられているかのような。

そしてそれは、愛しい少女のような。

思わず抱きしめ返してから、ルードヴィッヒはゆっくりと目を開けた。

夜空のように暗くも美しい空間で、自分と少女が抱きしめ合いながら沈み続けていく。

少女はルードヴィッヒが見つめていることに気付くと、そっと顔を上げてから、笑いかけてくれた。

薄桃色の髪の、可愛い少女。

「…ミュズ」

ルードヴィッヒが名前を呼べば、嬉しそうに頬を胸にくっつけて頬擦りしてくれた。

甘えてくる姿に、愛しさが込み上げる。

可愛すぎて、抱きしめる腕の力をさらに強めた。

「ーー…」

そこで気付いた。

ミュズの温もりが強く伝わる理由に。

自分もミュズも、一糸纏わぬ姿でいる。

滑らかな感触に改めて気付かされた時、自身の深部が一気にカッと熱くなる非常事態に慌てた。

気付かれてはいけないと抱きしめる腕を離すのにミュズの方は離れてくれないから、昂ぶるものが、柔らかな肌に触れてしまう。

駄目だというのに、その柔らかさは離れ難くて。

ドクドクと心臓の鼓動に合わせて脈打ちながら、さらに硬く張り詰めていく。

離れないミュズは再びルードヴィッヒへと顔を向けると、ゆっくりとした動作で唇を近付けてきた。

あまりに緩やかな動き。なのに反り立つものを激しく刺激する。

もしこのまま唇を合わせれば、ルードヴィッヒはミュズを内側からも堪能できる状況に陥るだろう。

心臓の音が早鐘を打つように強く激しくなっていく。

愛しい少女と、身も心も繋がれたなら。

こんな、夢のような空間で。

きっと全てが幸福に満たされるはずだ。

しかし胸に引っかかり続ける何かが、ルードヴィッヒに駄目だと強く訴えかけてくる。

それだけは駄目だと。

まるで哀願するかのように。

いったい何なのだろう。

何がルードヴィッヒを、欲望のままに動くことを止めさせるのだろう。

このままではいけないような気分になってしまう。しかしそれも、ミュズの唇と重なった瞬間に一気に弱まった。

そうだ、と。

何も悪くなんてない。

悪いことであるはずがない。

ミュズがルードヴィッヒを選んでくれたというのなら、互いに思い合っているというのなら。

何もーー

触れ合わせただけの口付け。それでも、とろけそうな柔らかさに全身まで熱くなるようで。

このままミュズを味わい続けたい。

このまま。

このままーー

ーー駄目だ!!

胸に引っかかり続ける声が、強く静止する。

その声は、他の誰でもない。

自分自身の声だった。



「ーールードヴィッヒ!!起きたのか!?」

目が覚めたルードヴィッヒの耳に最初に飛び込んできたのは、ジャックの焦るような、喜ぶような声だった。

「……ジャック殿?」

どういう状況なのかわからず、声のした方へと目を向ける事しかできない。

「お前やったな!!お前が勝ったんだ!!」

理解できないままのルードヴィッヒにジャックは喜び続け、その隣に見慣れない武人が並ぶ。

「おめでとう、ルードヴィッヒ殿。第三試合は君の勝利だ」

ウインドと共にいたはずの武人が、肩の力が抜けたような微笑みを浮かべながらガシガシと頭を撫でてくれた。

子供扱いされたようで無意識に嫌がってしまったが、武人は手を離す素振りを見せない。

そして

「…おめでとうございます、ルードヴィッヒ様。剣武大会の規定に則り、同時の気絶から先に目覚めた貴殿の勝利が決まりました。……つきましては…その……第四試合へと早急に向かっていただきたく…………」

武人とは別の女性の声が聞こえてきたものだから上半身を起こして顔を向ければ、ラムタルの白い軍服に身を包んだ女性が淡々と説明を始め、だが何かに気付いたかのように身体ごと顔を逸らしてしまった。

エル・フェアリア語を流暢に話していたかと思うと。

『…私は勝者を伝えてきますので、後はお願いします!!やだ、もう……』

突然投げやりに叫んで、部屋を出て行ってしまった。

いまだに何が何だかわからないルードヴィッヒを置いて、ジャックと武人が顔を見合わせて苦笑して。

 
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