エル・フェアリア2

□第101話
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その魔力がとうとう枯渇するまでに無くなってしまったから、我が子の死を察したリステイルは必死にファントムを探し出したのだ。

リステイルから赤子を託された時、その子は長くは生きられないだろうと思っていた。

それほど魔力が枯れていたのだ。

魔力を持つ者達にとって、魔力を失うことは命を失うことに等しい。

それが、立派に成長してくれていた。

それだけでなく、まさか両親と同じく騎士の道を選ぶとは。

リステイルはレイトルが城にいることに気付いているはずだ。

だがクルーガーはどうだろうか。

彼はリステイルが魔術兵団に入ると同時に彼女を記憶から消されてしまった。

リステイルを忘れ、新たな女性と出会い、家族となり、子を成した。

クルーガーはきっと気付いていない。

レイトルが我が子であることを。

ルードヴィッヒの記憶の中のレイトルはアリアをよく見つめていた。

アリアを守る護衛騎士としての眼差しではない。

かつてリステイルがクルーガーに向けていた眼差しと瓜二つで、物悲しくなるほどだった。

ファントムは目を閉じて、ルードヴィッヒからも手を離す。

運命を捻じ曲げられてしまったのは、自分達だけではないのだ。

レイトルを救ったことで、リステイルは自分のできる範囲内でファントムに手を貸すようになった。

パージャやウインドとエレッテを魔術兵団から救い出すことが出来たのも、リステイルが時間を稼いだからだ。

残念ながらリーンは向こうの手にかかってしまったが、リステイルはリーンが埋められた新緑宮の結界が弱まる時期を教えてくれた。

それがなければ、リーンは今も土中に押しつぶされたままだっただろう。

残酷な世界。

でも、生きていかなければならない。

「ーー…」

ふと外から女性達の凄まじい歓声が聞こえてきて、息子の試合が始まったのだと悟った。

二番目の息子であるコウェルズの試合が。

ガイアに産ませてすぐ取り上げた子供は、ファントムが命じずとも思う通りに育ってくれた。

その思考は国の為に己が存在するということを理解している。

「…記憶を見せてくれた礼に、不要な過去を消してやろう」

窓辺に向けていた目を再びルードヴィッヒに向けたファントムは、眠り続ける額にそっと手を置いた。

記憶を覗いた際に知った、今後の彼には必要のない記憶を。

「その努力は、誇るべきものだ」

ルードヴィッヒが昨日の試合で対戦相手に言われた言葉に、手から直接脳に魔力を送り込んで術式で蓋をする。

操作訓練の一環として魔具の装飾を身に纏っていたというのに、それを飾り立てた娼婦だなどと。

確かに整った美貌を持つルードヴィッヒを彩りこそしたが、欲望の為に貶されていいものではない。

眠りを邪魔しない繊細な技術で術式を優雅に使いこなすファントムは、ものの数秒で記憶の蓋を済ませて手を離す。

ちらりとウインドに目を向ければ、こちらも起きる気配は無さそうだ。

どちらが先に目覚めて勝者となるのか。

介入は野暮というものだ。

眠る二人に背を向けるファントムは、そのまま扉へと手をかけようとする。

だが向こう側にいる武人が気配に気付き、先に開けてくれた。

ラムタルは本当に、優秀な者ばかりとなった。

「無事に済みましたか?」

「ああ」

気安く話しかけてくる武人と初めて出会った時、彼は幼いバインドを懸命に守る若き護衛だった。

立派に成長しすぎた武人とファントムの間を頭を低くしながらイヴが邪魔そうに通って行き、室内のルードヴィッヒとウインドの様子を見る。

その様子に苦笑してから。

「これからどちらへ?」

「そうだな…不安要素も無いとわかった。妻と息子を連れて、大会を観戦するとしよう」

ガイアもルクレスティードも、コウェルズを気にするから。

“家族”を大切にする方法はまだよくわからないが、ファントムの変化を喜ぶように、武人は穏やかな眼差しで微笑みかけてくれた。


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