エル・フェアリア2

□第101話
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ルードヴィッヒの過去の記憶が、ファントムへと流れ込む。

エル・フェアリア城内、アリアも共にいる状況でその若者はいた。

「…アクセル・ソアラ、か」

共にいるのは、エル・フェアリアの貴族としては珍しく薄茶の髪をした青年だ。

ファントム自身にも残る記憶と照らし合わせながら、アクセルの人となりを辿りながら。

残念ながらアクセルは己の力を理解していなかった。

ルクレスティードと繋がったことで自分の力を知った可能性は高いが、それならば今は毒にも薬にもなることはない。

それよりも、ルードヴィッヒの記憶を見るファントムは薄茶の髪と瞳を持つ若者に深い興味を持ってしまう。

エル・フェアリアにてニコルとアリアに礼服を手渡してやった時に“再会”した青年に。

レイトル。無事に産まれて育っていたのか、と。

治癒魔術師となったアリアを誘き出す為に王都の児童施設で事件を起こさせ、ニコルの返答次第では本気でアリアを預かるつもりでいた。

アリアはそれほど重要で危険で、大切な存在だから。

だがアリアを守る為にファントムの前に立ちはだかったのは、ニコルではなく彼だった。

深い興味を持った視線を向けてしまったことには自分でも気付いている。

まさか、再会するなど思ってもいなかったのだから。

かつての仲間が壮絶な運命の後にファントムに助けを求めて産まれた赤子。

魔力を持つ貴族でありながら、魔力がほとんど枯渇した深い理由のあるレイトル。

ルードヴィッヒの記憶にはアクセルとの関わりはほとんど無いに等しかったが、レイトルとの関わりは多く存在していた。

主に訓練場で、レイトルから何度か指導を受けている記憶が。

温和な笑顔も、厳しい指導も、全てがかつての仲間とつながる。

ファントムがまだロスト・ロード王子だった頃の、二人の仲間と。

何十年も昔の記憶が蘇る。

ーーロスト・ロード様…彼には…まだ内緒にして下さい……

思い詰めた表情で、エル・フェアリアで初の女騎士となったリステイル・ミシュタトは自分の身に起きている出来事を話してくれた。

大戦が終結した後のことだ。

ロスト・ロードの護衛騎士だったリステイルは、恋人との子供を身籠ってしまった。

結婚の約束はしていたと聞いていた。だがもう少し後に、国の情勢が落ち着いた頃にと。

しかしそれより早くにリステイルは身籠ってしまったのだ。

同じ護衛騎士だった恋人、クルーガーとの子供を。

騎士でありながら女でもあった彼女は、自分の身に起きた出来事にひどく狼狽えていた。

相談を受けたファントムは当然のようにリステイルの身を一番に考えて行動しようとしたが、その後に魔術兵団との戦闘があり、国にいられなくなってしまった。

ファントムとなった後にリステイルのことを思い出したことはあっただろうか。それすら定かではないほど、ただひたすら己の力と居場所を取り戻す為に、その身に受けた呪いを解く為に行動し続けて。

ある日、リステイルと再会した。

魔術兵団がファントムとその仲間達を探そうとしていることには気付いていたが、リステイルが魔術兵団員になっていたことには驚いた。

かつての仲間と戦うのか。

そう思いながらも剣を向けようとした時、リステイルはファントムへと膝を付いた。

額を地面に付けて、助けてください、と。

理由を訊ねるファントムに、リステイルは語った。

血眼になってまでもファントムを探し出し、独断で近づいた理由を。

リステイルの腹には、赤子がいたままだったのだ。

何らかの理由で魔術兵団へと身を落とすことになったリステイルは、謎の力により不老と不死の身体となってしまった。

腹の赤子を巻き込んで。

赤子は二十年以上の間、リステイルの胎児であり続けたのだ。

だが不老と不死の身体となったのはリステイルだけだった。

赤子は奇妙な状況下でリステイルの腹に宿り続けたが、限界が来てしまった。

このままでは我が子が死んでしまう。

それを直感したリステイルは、ファントムと敵対する魔術兵団員でありながら、我が子の為にファントムを探し出したのだ。

探し出して、救いを求めた。

しかしファントムが出来ることは限られていた。

赤子を育てられる環境を探し、その赤子が受け入れられるよう関わる者達の記憶を操作することしかできなかった。

その間に、リステイルは子を産んだ。

死ねない身体に死ぬほどの凄まじい痛みと苦しみを受けながら、胎児を外に出せるまでに強制的に成長させて、腹を自ら裂いたのだ。

そうして産まれた赤子は、上質な魔力を持っていた両親とは異なり、最低限の魔力しか持たない子だった。

恐らくは二十年以上リステイルの腹の中で生き長らえる為に己の魔力を使い続けたのだろう。

 
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