エル・フェアリア2

□第100話
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第100話


試合二日目の朝も無事に快晴となった。目の覚めるような青空を見上げながら、ルードヴィッヒは早鐘を打とうとする心臓を何とか呼吸で整える。

二日目の身体検査も無事に終わり、レフールセント国のディオーネも無事に二回戦を突破していたので二人で互いの健闘を讃えた。

二日目からは剣術武術試合は同じ闘技場で行われる為に、目的地までは共に向かって。

昨日とは比べ物にならない巨大な闘技場に足を踏み入れた瞬間、まだ関係者入り口だというのに観客達の熱気が凄まじく伝わってきた。

場所は昨日と同じはずで、たった一晩で絡繰りの闘技場が合体したのだと悟る。

戦士達の殺気を打ち消すほどの活気と熱量に、ルードヴィッヒの胸の鼓動が別の意味で早くなりそうだった。

『すごいわね…』

それはディオーネも同じ様子だったが、表情は非常に落ち着いている。

『じゃ、私達は自分のところに行くわね。しっかり頑張ってね、ルードヴィッヒ君』

『もう子供じゃありません!!』

爽やかに子供扱いされてしまい、すぐに反論するもケラケラと笑われてしまった。

昨日バインド王に「我が国で立派なお子様だ」と言われてしまってから周りの目がどうも甘い気がするのだ。

『ジャック様!昨日の件しっかり考えてくださいね!明日まで良い返事待ってまーす!』

少し離れたディオーネはさらにジャックに大声で子種の件を隠しながらも叫んでくるものだから、ジャックはそっと頭を抱えていた。その隣では案内で共にいたイリュシーが強くジャックを睨みつけている。

「…今の、何か面白い事でもあるのかい?」

ディオーネが離れてすぐに話しかけてきたのはコウェルズで、面白いことになっていそうなジャックに詰め寄り始める。

「……お気になさらず」

凄まじく嫌そうなジャックも、さすがにコウェルズの前でため息は我慢した。

口調はすでに、王子と臣下のものとなっている。

昨日の時点でコウェルズの正体は完全にバレたので、もう良いだろうとのことだ。

「そちらこそ、今日の身体検査は無事に済んだのですか?」

「当然じゃないか」

爽やかな笑顔を心から浮かべるコウェルズの後ろでは、ダニエルとイリュエノッドのサポートの二人が同時に首を横に振っていた。

ジュエルを守る為に身体検査場には入らずにいたダニエルに代わり、イリュエノッドのサポートの者達がコウェルズに付いてくれたのだ。

その二人の顔が疲れ切っていたので、短時間でかなりコウェルズに振り回された様子だった。

『では私は大会運営に戻ります。エル・フェアリアの皆様もイリュエノッドの皆様も、ご活躍を期待しております』

もうここで案内は不要だろうとイリュシーは深くお辞儀をして、近くにいた他のラムタルの者とさっさと合流してしまった。

顔には出さないが仕事が山積みなのだろう。

さらにバオル国のアン王女の世話もある中でエル・フェアリアの面倒も見てくれていたのだから、感謝ばかりだ。

『皆様、我々も陣営に向かいましょう。イリュエノッドはあちら側です』

イリュエノッドサポートの二人が先を歩いて皆で陣営に向かう中で、ルードヴィッヒはすぐにジュエルの隣を手に入れる。

昨日は美しいドレスを纏ったジュエルと踊ったのだ。その記憶が、今も鮮やかに思い出される。

重ね合わせたジュエルの手は本当に小さくて、守ってあげなければならないと本気で思った。

「…おでこはもう綺麗に治りましたわね」

隣を歩き始めた途端にジュエルはルードヴィッヒを見上げてきて、昨晩癒してもらった額が綺麗になっていることを喜んでくれた。

ラムタルの治癒魔術師が治癒の為に訪れてくれた時間帯はなかなか遅くなってしまい、ジュエルは睡魔に負けて立ち会えなかったのだ。

朝からも忙しなく準備があったので、ゆっくりと確認できてホッとしている様子が嬉しかった。

「もう大丈夫だ!…戦闘着も、綺麗にしてくれて助かった」

「いつでも任せてくださいな」

無邪気に笑ってくれるジュエルの何気ない言葉が染み渡る。

いつでも、なんて。どこまでルードヴィッヒを思ってくれているのだろうか。

緩む頬を懸命に引き締めながら、人々で溢れかえる大会関係者用の入り口ホールを抜けて、闘技場のグラウンドへ向かって。

『ーールードヴィッヒ君!ちゃんとトイレは済ませたかい?』

『子供扱いはやめてください!!』

通り過ぎた他国の戦士に揶揄われて、すぐに顔を顰めて叫んだ。

仲良くしてくれた戦士達はルードヴィッヒの返事に笑いながら自分の陣営に向かっていく。

やはり誰も彼もがルードヴィッヒを子供として扱ってきている。

 
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