エル・フェアリア2

□第98話
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「…それで、どうして腕を切り落とさせたのですか?」

表情の険しい双子に睨みつけられながら訊ねられて、コウェルズは静かにため息を吐いた。

結界も張っていないのに言葉遣いが一応正されているのは、もうエテルネルとして扱う意味がないとしたからなのだろう。

大会関係者達はすでにエテルネルの正体に完全に気付いている。それはコウェルズも肌で感じ取ったことだ。

確実ではないと様子を伺っていた国々も、今日は完全にコウェルズを敬遠していたから。

そんな中で試合を行い、勝ち進みはした。

勝ち進む過程で切り落とされた左腕は、今は傷ひとつ存在せず痛みも当然ない。

あはは、と誤魔化すように笑ってみても、ジャックとダニエルは少しも表情を綻ばせようとはしなかった。

「試したいことがあっただけだよ。腕はすぐ繋げてもらえるってわかってることだしね」

観念しながら、外れない左手薬指の魔力増幅装置に触れる。

コウェルズの指に完全に食い込むその指輪が取れてくれないかと願ってみたが、腕が繋がった過程で指輪も元通りとなってしまった。

イリュエノッドから譲ってもらった禁忌の指輪を外す為には身体ごと切り落とさなければならないと聞いたことがあるが、指輪を真っ二つにする必要があったか、それとも腕が身体から離れた時に先に外す必要があったか。

魔力増幅装置は文字通り魔力の質量を増やしてくれるが、それの代償は使用者の命だ。

コウェルズはファントムと対峙する為にイリュエノッドから指輪を手に入れた。

まさかサリアが対の指輪をはめるとは思わずに。

コウェルズが魔力を失っても力を使おうとすれば、サリアの命が先に削られることになる。

サリアの指輪の効果が消えてくれたら、と考えて第二試合の最中に腕を犠牲にしてみたが、何の結果も得られなかった。

それどころかあんな凄まじい痛み、二度とごめんだ。

しかも出血が酷かったせいか、いまだにふらつく。

「……腕が繋がらない可能性もあったのですよ。他国の治癒魔術は、アリア嬢のように見事な治癒魔術を扱うわけではないのですから」

「知ってるよそんなこと。でもラムタルは優秀な治癒魔術が揃ってるから大丈夫さ。それに…気になる人もいたものだからね」

今コウェルズに話しかけたのがジャックかダニエルかちょっとわからない状況で、腕を犠牲にできた理由はちゃんとあるとため息を吐いた。

「…銀の髪の女ですか?」

「ああ。恐らくジュエルが接触した女性で、ファントムの仲間のはずだよ。まさか私の試合を見に来ていたなんてね。しかも彼女は確実にメディウム家の人間だ」

彼女を見かけた時、腕を落とそうと一瞬で考えついた。

コウェルズが傷付けば、治癒魔術を絶対に使うとなぜか確信出来たから。

そして実際に彼女は傷付いたコウェルズに駆け寄り、素晴らしい力で腕を治してくれた。

その魔力は、アリアの魔力とほぼ同じものだった。

エル・フェアリア王家の魔力が他者とは何か異なるように、彼女の治癒魔術も他の治癒魔術師とは異なっていたのだ。

何とか彼女を捕まえて話しをしてみたかったが、ジュエルに阻止されてしまった。

わざとらしく彼女を逃したジュエルを咎めるつもりはないが、ジュエルの反応が見れたから彼女がファントムの仲間であると確信したとも言える。

アリア以外にもメディウム家の者は生きていた。

なら、子供の方とも接触しておきたいが。

ルクレスティードというらしい少年は、コウェルズ達がラムタルにいる間に接触しに来てくれないだろうか。

「メディウム家の人間はエル・フェアリアの者なのだから返してくれ、って言ってみても、バインド王はクスクス笑うだけで聞き入れてくれないだろうね」

「まったく…それどころではないと分からないのですか?あなたがした事は…」

「試合中の負傷なんてよくあることじゃないか。それより私とルードヴィッヒが八強入りしたことを喜んでほしいものだね」

開き直れば、二人分の盛大なため息が。

ルードヴィッヒは今頃ジュエルに簡易の治療を受けているだろうが、本来なら一日目を無事に勝った祝いをするべきところだ。

じきにルードヴィッヒの額の傷を治す為に治癒魔術が来てくれるとして、その後は少し豪華な食事を摂っても構わないはずだというのに、このままジャックとダニエルにひたすらピリつかれそうだ。

もう勝手に無茶な事はしないと言ってみても、前科が多いので信じてはもらえないだろう。

 
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