エル・フェアリア2

□第98話
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武術の型は戦闘にまつわる動きの縮図。それに合わせて作られた、武術の為の戦闘着。

明日またこの戦闘着で試合を行える。その事実に心臓が改めて鼓動を早めようとした頃に、コンコン、と湯浴み場の扉からノック音が響いてきた。

「ルードヴィッヒ様、もう着替えられましたか?」

「あ、ああ!」

ジュエルも着替えが済んだ様子で、ルードヴィッヒの返事を聞いた後でゆっくりと戻ってきてくれる。

薄藍のドレスを纏った、花の妖精のように美しい少女が。

「ーー…」

あまりの可憐さに、呼吸を忘れそうになった。

「髪型は当日きちんとしますけど…変ではありませんか?」

「……………………すごく似合っている!…いつものドレスとは違うけど…すごく綺麗だ……」

普段の可愛らしさを最大限に発揮するかのような愛くるしいドレスももちろん似合っていたが、無駄のないドレスはシンプルで、だからこそ大人びて見えて、本当に綺麗で。

ルードヴィッヒの返答はジュエルにとって満点だったようで、嬉しそうな笑顔がとても可愛かった。

「私、本当はこういった大人びたドレスを着たかったんですの」

「…でもいつもは」

「いつもはミシェルお兄様が選んでくださいますの。もちろんお兄様の選んでくださるドレスも好きですけど…」

少し言葉がもごつくのは、兄の選んだドレスを悪く言いたくなかったからだろう。

「ドレスを作り替えたこと、お兄様には内緒にしてくださいね」

不安そうにしながら、シーっと口元に人さし指を添えながら。

「も、もちろんだ!!」

こんなに綺麗で可愛い姿を独り占めできた事実が嬉しくて、しかも普段とは異なる美しいドレスを着たジュエルを初めて見たのが自分であることが嬉しくて、今にも走り出したくなるほど興奮しそうになった。

「普通に動く分には何も違和感はないのですが、踊るとなると不安でしたの」

くるりとその場で軽やかに回って、そのままルードヴィッヒの元に訪れて。

嬉しそうな、照れたような笑顔で見上げてくる。

「さ、踊りましょう!」

両手を出してくる無邪気な姿に、心臓が爆発しそうになった。

「だ、だが…曲がないと…」

自分からダンスを申し込んでおきながら後ずさってしまい、ジュエルが少しだけ頬を膨らませた。

「歌って差し上げますわ!」

強引に両手を合わされて、触れ合ったその指の小ささに驚いて。

抱きしめられる距離にいるジュエルが、可愛らしい鼻歌で歌い始めた。

ルードヴィッヒの耳にも馴染むその曲は、エル・フェアリアの子守唄だ。

ゆっくりとした優しい歌に合わせて、穏やかにステップを踏む。

ジュエルはドレスの出来を不安に感じていたが、共に踊る限りでは何も不備は見えなかった。

薄く軽いレースの生地が少し踊るだけでもふわふわと波打つように舞い上がる。

甘い香りは、どこから溢れてくるのだろうか。

最初こそ緊張でドキドキと胸が高鳴りステップを間違いそうになったが、次第にルードヴィッヒもジュエルとの二人だけのダンスタイムを楽しめるようになってきた。

ラムタルに到着してから大会の為にピリつき続けた精神が優しくほぐれていくような。

思わずジュエルの鼻歌に合わせて子守唄を歌ってしまい、ジュエルは嬉しそうに見上げてきながら鼻歌から歌声に変えて。

まだルードヴィッヒも幼かった頃、こうやってジュエルと歌って踊った記憶が蘇る。

あの時はジュエルに合わせてあげていただけだ。

でも今は、心から楽しいと思える。

ジュエルも同じ気持ちだろうか。

優しく歌いながら、やわらかく踊りながら、この時間が長く続けばいいのにと心から強く願ってしまった。

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