エル・フェアリア2

□第54話
3ページ/12ページ


アエルの傷は局部にまで及んでいるはずで、その理由が知れたら、強姦未遂に合っているアリアをも苦しめてしまうかも知れない。

そこまで考えて、ふ、と鼻で自分自身を笑ってしまう。

どこまで他人の事を考えるつもりだ、自分は。

今はそれどころではないというのに。

「エレッテの方は無事なのか?どこにやったんだ」

アエルに何度も肩を撫でられていれば、反対側からソリッドはエレッテの安否を気にした。

無事かどうか、確証は持てないが。

「…たぶん、大丈夫。魔術兵団の手には落ちないはずだから」

「だからどこに」

「…信頼できる“元”仲間のところ」

エレッテにかけていた術が解けた時、魔力が消え去る一瞬に触れたのは、馴染み始めていた騎士達の気配だった。

ルードヴィッヒに、ニコル。ガウェは危険かもしれないが、ニコルが止めてくれると信じて。

パージャが放った魔力に気付いてくれたのだ。だから彼らはハイドランジア家に訪れてくれた。

老夫婦のビデンスとキリュネナも心配だが、あの短期間での記憶操作などたかが知れている。

「そんなことよりさ…オッサン、エレッテと面識あるんだよな?」

朦朧とする意識を何とか留める為に、わずかに頭を動かす。

とたんに肩の傷がズクリと痛んだが、悲鳴はこらえた。

「今はそんな話してる場合じゃないだろ」

「…気になるんだって…気になる話してなきゃ、眠っちまう…」

それだけは避けたいからと。

「寝てりゃいいだろ。また奴らが来たら起こしてやるよ」

「…魔力を消費しすぎたんだ…魔力持ちが消費のせいで一回寝たら…すぐには起きられない」

下手をすれば数日は眠りについてしまう。それだけは避けたい。

「だからさ、教えてよ…あんたがエレッテを心配する理由」

訊ねるパージャに、肩に触れていたアエルの手も止まる。アエルはソリッドから一部始終は聞かされていたはずだから、それを思い出したのだろうか。

「エレッテは…」

ソリッドの声も、どこかつらい色をしていた。

「傭兵隊として駆り出された戦闘区域にいた隊に、ウインドと一緒に飼われてたんだ」

それは、パージャも聞いたことのある過去だった。

「エレッテは慰み者の奴隷として飼われていた…傷がすぐ治る不思議な身体だったからな…毎日強姦漬けだったみたいだ」

死と隣り合わせの戦闘に明け暮れ心身共に異常を来す兵達の中で、まだ幼い少女を。

「一夜だけ…俺達の隊で持ってた酒と交換したんだ…たった一夜だけだがな」

あまりにも酷すぎる扱いに、ソリッドが救いの手をさし伸ばせたのはたった一夜だけだった。

「メシ食わせて寝かせただけだが…人の扱いはされてなかったみたいだ。何をしてもすぐに怯えて…顔色ばかり見やがった」

パージャが思い出すのは、出会った当初のエレッテだ。

全てに怯えて顔色を窺う。エレッテより年下のミュズやルクレスティードにまで。

パージャに慣れてくれるまで、どれほどの日数が必要だっただろうか。

年下の二人や女のガイアと違い、エレッテはパージャとファントムには長い間心を開かなかった。

「あんた、ほんとイイ人なんだな…」

明日は我が身の戦場で、たかが奴隷一人に束の間であれ安らぎを与えようとしたのだ。

きっとソリッドは、エレッテだけでなく他の奴隷達にもそう接してきたのだろう。

「…アエルとの出会いも、そんな感じだったの?」

痛む身体を我慢して動かし、顔の腫れ上がっているアエルを目に映す。


 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ