エル・フェアリア2

□第47話
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「サリアったら顔を真っ赤にして…とても可愛かったですわ」
 夕食の席を思い出してさらに微笑むエルザの純粋な様子に意地悪心はふわりと芽生えた。
「サリア様の言葉が真実なら…エルザはもっとはしたないって事になるな」
 純粋そうに見せても、恐らく王族の娘達の中でエルザだけは男を知っているのだから。
 半ば強引に手を出したのはニコルだが。
「わ、私ははしたなくなんて…」
 言葉の含みに気付いて、エルザの顔が真っ赤に茹で上がる。
「冗談だ」
「…もう!」
 男を知っていようが純粋なまま。
 意地悪をされてエルザは頬を膨らませるが、それもすぐにしぼみ、妙な沈黙は熱を帯びた眼差しを向けられると同時に訪れた。
 まるで先を望むかのようなエルザの瞳にニコルの腰は浮き。
「…遅くなったな。もう戻る」
 逃れるように立ち去ろうとする腕に、指輪をはめたエルザの手が触れた。
「…また来るから」
「あ…明日の朝の護衛がサイラスだから…今晩来てくださったのではなかったの?」
 三日前。
 ニコルは明日の朝の護衛に立つ騎士がサイラスであることを見越して今晩を選び、エルザと約束を交わした。
 それは、
「…サイラスは寝坊しても、起こさないで眠らせてくれるから…」
 その騎士ならエルザが朝に起きられなかったとしても無理矢理起こさないから。
 そこまで言って顔を真っ赤にするエルザの元に戻り、立ったままエルザの頬に手を添えて上向かせる。
「…コウェルズ様からさりげなく逢い引きに使える部屋の場所を教えられたんだが…」
「え…」
 エルザと今日の約束を交わした後、コウェルズはニコルの心に住む本当の女の存在を知った上でエルザとの逢瀬に使える場所を告げた。
 コウェルズにとってエルザはニコルという血を手に入れる為の手段となったが、エルザにはどう接しているのだろうか。
 ニコルには気付いていると告げたのだ。エルザにも二人の仲がばれていると、コウェルズなら告げそうなものだが。
 互いに無言になりながら数秒。やがて顔を赤くしながら背けたエルザに、やはりコウェルズはエルザにも気付いていると告げたのだと知った。
「…連れて行ってもいいか?」
 やや荒っぽく手を差し出せば、
「…はい…」
 エルザはそっとニコルの手に触れて立ち上がった。

−−−−−

 レイトル達が秘密に作り上げた訓練場は、木々に囲まれている為に夜になれば完全に闇に溶け込み辺りが見えなくなってしまう。
 あらかじめ用意されている4ヵ所の訓練場ならば夜にも魔力による明かりが灯されるが、ここでは自分達で用意する他ない。
 魔力を明かりに変える方法は勿論あったが、剣術訓練に没頭したいという周りの団結により、秘密の訓練場をぼんやりと照らすのは数本の蝋燭だけだった。
 夜の訓練、参加者はレイトルとセクトル、フレイムローズ。そしてルードヴィッヒを含めた若騎士達が数名。
 王族付き候補だけならまだしも、ルードヴィッヒ達は仲のよい若騎士達全員に秘密の訓練場を暴露したらしく、やる気に満ちた者達はこぞって魔眼のフレイムローズ目当てに訓練場を荒らしてくれた。
 もはや完全に秘密でなくなった訓練場荒らしの極刑に値する罪を代表して償ったのは王族付き候補筆頭のルードヴィッヒだ。レイトルとセクトルから左右同時に放たれた本気の頭突きはさぞ効いただろう。
 フレイムローズの魔眼訓練もそこそこに終わらせて剣術訓練に精を出す。
 剣術はニコルほどではないにしろレイトルの得意分野であったので、必然的にレイトルが全体を見渡すことになった。
 明け方からアリアの護衛があるので訓練は身体をほぐす程度にしておきたかったのに、体力有り余る若騎士達は糞餓鬼と言い放ちたいほどレイトルに教えを乞うた。
 レイトルも年齢で言うなら若騎士達とさほど変わらないのだが、気持ちが老いている気がするのは何故だろうか。
 二人一組にさせて撃ち合わせ、レイトルは一歩引いた所から隙のある者達に注意を促していく。
 セクトルとフレイムローズは魔具を使用しての剣術訓練だ。
 遅すぎる時間帯ではないが、まだ夕食を食べていないのでそろそろ腹の音が煩い。
 
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