エル・フェアリア2

□第47話
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 ファントムは再び戻ってくる。
 フェントの解析からコウェルズはそう確信している様子だ。
 ファントムの狙いはあの女なのだろうか。
 謎に満ちた不思議な女。
 ニコルを殺そうとした、だが。
「首を絞められた時…何故かはわからないが、とても懐かしく思ったんだ。あの手を知っているような気が…」
 物思いに更けるように、エルザの手を握りながら女の指先を思い出す。
 白く冷たい指先は、ずっと昔から知っている気がして。
 ふと視界に緋色が揺らぎ、エルザが身体を傾がせてニコルの胸元に身を寄せた。
 寄り添うように、だがどこか不満そうに体を固くして。
「エルザ?」
「今、すこし嫌な気持ちになりましたの」
 見上げてくるが、すぐに俯いて頬を胸にすり寄せてくる。
 ニコルの背中に両手を回して、エルザなりの力でぎゅっとすがって。
「…なんでだ?」
「…わかりません。でも…ニコルが他の方をそんなふうに語るのは…」
 嫌です、と。
 可愛い嫉妬心に、思わず笑みは漏れた。
「得体の知れない女だぞ?」
「わ、笑わないでくださいませ!…ニコルの周りには女性がいつもいらっしゃるから…不安になりますの!!」
 恥ずかしさと不満を同時に見せるエルザに、しかし聞き捨てならない単語に眉をわずかにひそめる。
「…いつも?」
 騎士団は男社会で、一日の大半で目にするのは野郎ばかり。侍女はいるがわざわざ声をかけることは無いし、かけられるのもたまにだ。
 だがエルザにとっては嫉妬せずにはいられない要素は多方面にあるらしく、
「き、今日だって、出掛けた先で女性と仲良くお話をされていたと…城下に降りた侍女が言っていましたもの…」
「−−…」
 城下町での件を思い出させる言葉に身体が固まりそうになった。
 エルザに告げたその侍女が誰かは知らないが、ガブリエルでないことは確かだ。
 貴族の娘としてなら話は別だが、ガブリエルの侍女階級ではエルザに目通りは叶わない。
 恐らくエルザと親しい高階級の侍女が城下にいたのだろう。
 そして仲良く、という辺りを聞く限り、恐らくテューラ達と歩いている姿を見られたか。
 顔を上げるエルザは瞳を潤ませて不安そうな様子を見せる。
「…誤解だ。道を尋ねられただけだ」
 道を間違えたのはニコルの方だったが、嘘も方便とばかりにエルザを騙す。
「…本当ですの?」
「ああ」
「……」
 まだイニスの件を引きずっているのか、エルザはニコルから離れようとはしなかった。
「あ、そうだ…」
 城下に降りて、テューラと再会して。
 その前に手に入れていた重要な存在を思い出して、ニコルは少し強引にエルザの身体を離した。
 離されて不満そうにするエルザの前で、懐に手を入れて。
「…前に言ってたろ?小指の紐が千切れて不安になったって」
「…!」
 ニコルが言ったのはエルザの手袋の糸が千切れてしまった事だったが、エルザはどうやらその先まで思い出してしまったらしい。
 初めて交わった夜。
 その日を思い出して一気に頬を赤く染め上げるエルザの両手を、ニコルは懐から取り出した袋を持ったまま引き寄せる。
「どっちの手だ?」
「…え?」
「小指」
 糸が切れたと悲しんだエルザ。
 ラムタル国では、運命で結ばれた二人には目に見えない赤い糸で小指同士が結ばれるという。
「…こちらですが」
 エルザは不思議そうに困惑しながら右手を差し出す。
 その手の小指を優しくつまみ上げて、もう片方のエルザの手は離した。
 何だろうと見守るエルザの視線を気にしないようにしながら、布に納められた石を片手で器用に取り出す。
 昼間に買った、緋色の美しい宝石だ。
 まだ原石のままの、小指の先ほどの大きさの。
 その色を目にした時、ニコルの脳裏に浮かんだのはエルザだけだった。
 ニコルはその石の形を指先で何度か確認してから、一気に魔力を注ぎ込んだ。
 パキンと割れる音が響き、辺りに緋色が細かく弾ける。
 ニコルの指先に残ったのは魔力によって雫の形に削られた石で、エルザの小指の幅を確認しながら新たに魔力を溢れさせた。
 魔具を生み出す要領で、石を巻き込みながら。
 そうして出来上がったのは、
 
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