エル・フェアリア2

□第47話
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「行ってみないとわからない状態。ヤマト様がどういう状況かも教えてくれないし…ヤマト様は未だに“来るな”の一点張りだし」

本来なら二年前にクレアはスアタニラ国に嫁ぐはずだった。

次期スアタニラ国王ヤマトの妻となる為に。

だがスアタニラは王族間の内乱状態となり、情勢悪化がクレアと婚約者を引き離した。

ヤマトはその身に呪いを受けて、今に至るまで伝達鳥が届ける手紙以外にヤマトの無事を信じる繋がりが存在しない。

どのような呪いを受けたのか、どのような姿に変わってしまったのかわからないまま。

「でも、私が行くことでヤマト様の呪いが解けるなら、行くしかないでしょ…私がいない分、優秀な騎士達も動けるんだから」

クレアが無理にでもスアタニラに向かう決意をした理由は二つだ。

ヤマトの為に。そしてリーンの為に。

ヤマトの呪いを解く鍵はどうやらクレアにあり、そしてクレアがエル・フェアリアからいなくなることでクレアの王族付き達が自由に動けるようになる。

クレアの発言に、壁際に待機していた騎士達の数名が俯いた。

姫の大半はいずれ嫁ぐ身だ。

だが頭ではわかっていても、別れはつらい。

「…その前に呪いについての知識を蓄えておかないとね」

「わかってるわ。嫁ぐ日までばんばん調べてやるわよ。絶対に呪いを解いて、あわよくば向こうの部隊を借りて戻ってくるから」

騎士達と同じように俯いた幼い妹達に目を向けながらもクレアの立場を優先させるコウェルズに、クレアの声も強くなる。

「ありがとう…必ずリーンを取り戻そう」

生きてくれていた大切なリーンの為に。

全員の頷きは同時のことだった。


−−−−−


殺意を宿したまま王城に戻り、頭を冷やす為に風呂場で水を被り。

風を通す為に窓を開けていた自室で、少し落ち着いたニコルの頭上に訪れて戸惑うように旋回したのは、見知らぬ小型の伝達鳥だった。

薄緑色の伝達鳥はニコルの苛立ちに敏感に気付いた様子を見せるが、ニコルが止まり木となるように指先を差し出せば大人しく下りてくれた。

足にくくりつけられた筒から手紙を取り出せば、差出人は城下で巻き込んでしまったテューラで。

夕暮れ近くに城下町から王城に戻る途中で再会した遊郭の娘は、その後に姿を現したガブリエルに目をつけられた為にニコルが強引に生体魔具で逃がした。

共にいたマリオンも無事で、誰に後をつけられることもなく妓楼に戻れたと感謝の文字がつづられているが、巻き込んでしまったのはニコルだ。

ただニコルと共にいたというだけで。

昼間にハイドランジア家のビデンスから聞かされたロスト・ロード王子と王妃の確執をなぞるかのように、ガブリエルはニコルに執着を見せる。

それも、歪んだ形でだ。

ガブリエルが連れていた、アリアの元婚約者。

初めて目にしたひ弱そうな男を思い出して改めて怒りが沸き上がり、ニコルの肩に移動していた伝達鳥が怯えて飛び上がった。

「…悪い、戻ってこい」

ガウェのベッドに逃げた伝達鳥はニコルを怖がって動かないから、仕方なくしばらくそのままにしてやる。

そして思い出すのは、ケイフという名の、下位貴族の女を選んだ屑。

二度とアリアに会わせるものか。

アリアに会おうものなら、ニコルはケイフを殺す。

草の根を分けてでも探し出して、無限に近い責め苦を与えて。

「……」

そんなことをしても、アリアが悲しむだけなのだろうが。

礼装を奪いアリアを悲しませただけでなく、それ以外でも悲しませ泣かせるつもりなのか。

だがそうしなければ、先にニコルが壊れてしまう。

だから、頼むからアリアの前に姿を見せるな。

頭を押さえて溜め息をついて。

ゆっくりと落ち着きを取り戻すニコルに気付いたのか伝達鳥が中央のテーブルにまで近付いてくれて、ニコルはテューラへの簡単な返信を書く為にベッド近くの棚に手を伸ばした。

七姫達を見慣れたニコルからすれば、取り立てて誉めるほど美しい容姿というわけでない娘。

だが生きた道筋がそう見せるのか、肌を重ねた情からか、一瞬ではあったが飾らずに笑う姿に目を奪われた。

女に慣れたニコルですら惹かれる面を確かに持つのだから、王城御用達の高級妓楼というのも頷ける。

 
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