いにしえほし

□第10話
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その姿は、クロードが無くした4年前のファルナラに酷似していた。

クロードが愛した娘。

クロードの妻となるべき。

まさか、願いの花の力なのだろうか。

突然のファルナラの変化は喜びよりも困惑をクロードに植え付けた。

「…陛下」

リスクが気を使うように視線を外しながら、神官衣の上着を渡してくる。

確かにクロードの上着ではファルナラの体を隠しきる事は出来なかったので、リスクの神官衣を受け取りファルナラに着させた。

膝まですっぽりと被われたなら、まだ安心だろう。

クロードはそのまま小さくなったファルナラを抱き上げ、広間の中を確認する。

目的の1つは取り戻した。後は願いの花だが。

「陛下、お願いします!俺を破滅の乙女の従者の元へ行かせて下さい!」

アキトはやはり我慢がならない様子で、復讐にぎらつく眼差しをクロードに向ける。

焦る様は危うくすら感じるが。

「陛下の力でも無傷だった者達相手に、棟内では無力に近い君がどうやって戦うんだ?」

そのアキトを諭すように止めるのはリスクだ。

土を操るアキトは確かに大地の上でなければ無力で、自分自身気付いているのだろう、苛立つように俯いて拳を震わせて。

「…それでも」

ミフユの仇を取らねば気が済まないと。

「お前とあの娘は恋仲だったのか?」

クロードが問うたのは、純粋に興味からだった。

クロードがファルナラを思うように、アキトも。

もしそうならば、クロードにはアキトの気持ちが痛いほどわかる。

「…恋仲では…ありませんでした。…ですが」

愛していました、と。

思いを告げる前に殺されて、アキトの心はどれほど磨り潰されたか。

「…さっきも言っただろう。従者はお前に任せてやる。だが今はついてこい」

アキトの恨みは果ての無いものに変わったはずだ。

従者であるルトの弟をたとえ殺せたとしても、アキトが死ぬまでまとわりつく。

「っ…」

言葉にならない苛立ちを拳に集めて、アキトは強く歯を食い縛る。

「陛下、これから中庭へ?」

冷静でいられるのは愛する者が今件に関与していないリスクだけで、彼はファルナラを保護したなら後は願いの花だけだと中庭へ向かうのか問いかけて。

「…その前に、探しておきたいものがある」

ファルナラと願いの花さえ手に入れれば構わないのだが、もう1つ。

太古から受け継がれる実験の数々に使える代物が手に入る可能性があるのだ。

それは別段必要なわけではないが、手に入るなら入れておきたい。

「いったい何を?」

アキトの窺うような眼差しを浴びながら、クロードはなるべくファルナラを揺り起こさないように静かに動いて壁に向かい、白く冷たい壁に手を合わせる。

「“強力な力を持つ能力者”がいるなら、手に入れておきたい」

クロードの言葉の意味を理解できたのはリスクだけだった。

クロードが望むほどの強力な力を持つもの。

有っても無くても構わない。

だが有るならば。

「…味方になるでしょうか?」

アキトは至極真っ当な疑問を口にするが、そこはどうでもいい事だ。

味方になるならそれはそれで構わないが、クロードの目的は味方の補充などではない。

そんなものに興味は無い。

クロードはあるかもわからない漠然とした力の所有者を頭に念じる。

無いならば道は開かないだろう。

だが道は霧を開くように目の前に現れた。

先ほどと全く同じ通路。

不安になりそうなほど変化が見当たらない。

唯一先ほどと違うのは、クロードがファルナラを片手で抱き上げているという点だけだ。

ファルナラを大切に抱き上げたまま通路を歩き、その先へと向かう。

全てが白いので通路の終わりを探すことは困難だったが、クロードは二度目ということもありしっかりとした足取りで進み続けた。

そして。

再び開けた広間。

その中央で車椅子から落ちて事切れている初老の女を見つけて、クロードは静かに笑みを浮かべた。

3人で静かに歩みより、クロードに代わりリスクが女の顔を足で軽く蹴って上向かせる。

「…死んでる?」

「好都合だ」

何があったかはわからないが、女は心臓を貫かれていた。

女の白い衣服が血に染まっており、その様子にアキトが一歩下がる。

 
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