エル・フェアリア

□第27話
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 アリアを愛している自覚がある。自分の手で守りたいと切に願う。だがそれ以上に、天空塔で仲間達と共に戦いたかった。
 アリアへの思いが仲間達より少ない訳ではない。レイトルの騎士としての本能がそうさせるのだ。
 女を求めることが男の本能であるとするなら、エル・フェアリアに生まれた騎士の本能は戦闘にこそある。
 戦って、挑み続けて、勝ち進む。
 それこそが騎士の、王族付き達精鋭の本質なのだ。
 なのになぜ自分は、愛してくれるかもわからない女を連れて逃げるのか。混乱する頭が、普段なら考えない方向へと思考を捩れさせていく。
 アリア。
 もしニコルばかりでなく、アリアを連れて逃げるしか出来ないレイトルにも気を回してくれたなら、ここまで思わなかった。
 愛しい。
 だが苦しい。
 せめてほんのひと欠片でもレイトルを案じてくれたなら、レイトルの腕を振りほどこうとせずにいてくれたなら。
−−こんなに脳内で、君を襲うことなんてなかった−−
 天空塔から凄まじい爆発音が轟いたのは、苛立ちからアリアの手首をつかむ力が強くなった頃だった。
 コレーが魔力を暴発させた時に見せた閃光とは規模の違う、まるで破壊しつくされたかのような爆音。
「きゃあ!!」
「アリア!!」
 あまりの衝撃波に、レイトルはアリアの体を抱き締めて地に伏せた。アリアを下に庇えば、大小幾つもの破片がレイトルに降り注ぐ。
 幸い酷い痛みを伴うような破片にはぶつからない。それでも強くアリアを抱き締めて、彼女に傷が付かないように懸命に守った。
 轟音が静まり始め、ようやく身を起こせば、天空塔が大破していて。
 人の姿で表すならば、肩から上をえぐり取られたかのような痛ましさ。
「…天空塔が…」
 そんな。
 天空塔は生きているのに。
 きっと痛いはずだ。
 なのに、あれほど大破してしまったら…天空塔はどうなるというのだ。
 それに天空塔の中にはまだ…
「…兄さん…兄さん!!」
「駄目だアリア!!」
「いやぁ!!」
 先に上体を起こしていたレイトルを押しどかそうと、アリアは躍起になる。
 天空塔にはニコルがいる。
 レイトルにとっては多くの仲間があの中にいるが、アリアにとってはただ一人の大切な兄が。
「離してぇ!!兄さん!!にいさんっ!!」
 そんなことをしても意味がないのに、アリアは天空塔に腕を伸ばす。
 ただ一人の兄だけを心配して、涙を浮かべて、錯乱して。
「アリアっ!!」
 何とかアリアを落ち着かせたくて強く抱き締める。もしこれがニコルなら、アリアを抱き締めたのが頼りがいのある兄だったのなら、アリアは落ち着いて冷静さを取り戻したのだろう。
 だがレイトルはニコルではない。どれほど抱き締めても、アリアを落ち着かせる事など出来なかった。
 悲しい。悔しい。
 そう思うと同時に、知らぬ声に語りかけられた。
「−−ここにいなさい」
 突然語りかけられて、レイトルもアリアも呆然とその声の主を仰ぎ見る。
 それはとても美しい女だった。
 20代後半ほどの、女の色気を大輪に咲かせたかのような香り立つ女。
 闇色の藍の髪と瞳、極上の肢体、エル・フェアリアでは珍しい長身の美しい女。
「だ…誰だ?」
 あまりに突然すぎる出現に、レイトルは困惑した声しか出せなかった。
 その女が悠然と微笑み、ふわりと癖のある闇色の髪を揺らしながら天空塔を見上げる。
 誰かに似ている?
 レイトルがそう気付いたと同時に、爆発音は地上からも響き渡った。

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