エル・フェアリア

□第27話
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 逆再生。そんな言葉があるのなら、まさしくそう見えた事だろう。
 誰もが声を無くした状態で。
「−−残念だけど、これでも死ねない」
 パージャは寂しげに呟いた。
「…何ですの…」
 腰を抜かすエルザを、天空塔の蔓は大切に庇う。
「…不死身…呪い?」
 そして婚約者の為に呪術を勉強し続けたクレアは、身に覚えがあるかのようにポツリと呟いた。
「…呪い?」
 クレアの言葉をコウェルズは聞き漏らさなかった。死ねないあの体が、呪いの影響だというのか。
 だとしたらパージャは、あの悲しげな様子は。
 張り積める空気の中を、二つの足音が響いて意識を他方に逸らしてしまう。
 誰もが見守るなかで、現れた新たな人影。
 神妙な面持ちは一人にはとても似合うが、もう一人にはあまりにも似合わない。
「クルーガー!!」
「…フレイムローズ…」
 リナトは長く肩を並べてきた騎士団長の名を呼び、コウェルズは大切に育て上げた魔眼の名を呼ぶ。
 なんて申し訳なさそうに俯くのだ。
 フレイムローズ。
 せめて見て見ぬふりをしたままこの場に現れなければ、皆の前で吊し上げる事にはならなかったのに−−
「フレイムローズ!!お前の魔眼であいつの動きを封じろ!!」
 フレイムローズの“存在”を理解したコウェルズとは逆に、アドルフは強い口調で命じる。
 アドルフはフレイムローズの直属の上官だ。同じコウェルズ王子付きの騎士と隊長として、共にコウェルズの側にあった。
 だが。
「フレイムローズ!!」
 なおも叫ぶアドルフは、フレイムローズという可愛い部下を信じて疑わない。それを止めるのは酷く胸が痛んだ。
「…無駄だよ…」
 それでもコウェルズは口にする。
 アドルフに、言うだけ無駄だと。
「…フレイムローズ?」
 ニコルも仲間として、友として、弟を心配するかのようにフレイムローズを呼ぶ。
 様子がおかしいぞ?どうした?そんなふうに、フレイムローズを慰めるように。
 誰も彼もがフレイムローズを疑わない。その中でコウェルズは気付いていた。
 フレイムローズの魔眼は特殊だ。そしてその特殊な力は、他の者達とは全く異なる気配を醸す。
「…あの結界の魔力には君の力もあった…彼の味方なんだね?」
 優しく訊ねるのは、せめてフレイムローズを苦しめたくなかったから。
 パージャがコレーを人質にしながら張っていた結界には、フレイムローズの魔眼の力が備わっていた。そしてパージャの指示にしたがった魔眼蝶も。
「…ごめんなさい…おれ…でも…」
 コウェルズのどこまでも思いやりのある声に、フレイムローズが強く目元を押さえる。
「…クルーガー、まさか君も?」
「申し訳ございません」
 フレイムローズの隣に立つクルーガーにも目を向ければ、彼も同じく謝罪と共に頭を下げる。
「何言ってんだよ!!フレイムローズ!!早くパージャを止めろよ!!」
 普段の無口無表情の自分を壊すように、セクトルも叫ぶ。友を信じたい。だからこそパージャを止めろと。
 無駄だと理解しているコウェルズには、あまりにも滑稽でつらい。
「ごめんっ…ごめん!!…無理なんだ…」
 頭を振って、フレイムローズは仲間達の、友の言葉を拒絶する。涙をにじませながら、大切な者達の力になれない理由は、フレイムローズが絶対の忠誠を王家に誓うからだ。天空塔と同じように、王家こそ全てだと。
 エル・フェアリア王家を守るためならば、フレイムローズは悲しみに絶叫しながらも仲間を殺す。
 そう躾たのはコウェルズだ。
 そしてパージャの魔力には…
 何もかもが、コウェルズの中で繋がる。だが最後の答えだけはわからない。
 パージャの、ファントムの狙いの姫は誰だ?
「だってその人は…」
 それをフレイムローズは知っている。
 知っているからこそパージャの味方をしたのだ。
 パージャの味方をしてでも、守るべき王家の為に。
「…言ってごらん。聞いてあげるから」
 抱き締めるように、慰めるように。
 コウェルズは言葉だけでフレイムローズの頭を撫でた。
 王家の、コウェルズの可愛い兵器。
 コウェルズがそう躾けた。
 従順な可愛い魔眼となるように。
 さあ、教えて。ファントムの狙いは?

「…パージャ達は…リーン様を助けてくれる人だから」

 そうして告げられた名前に、彼の心が爆発した。

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